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入手条件 性格 声優 デザイナー 素体性能プラス補正アビリティ マイナス補正アビリティ ライドレシオMAX時の上昇能力 イベント 固有武装装備時ステータス 色変更髪 瞳 入手条件 DLC「武装神姫 Moon Angel」全話DLでショップに追加 性格 基本的にはアーンヴァルMk.2と同一。 カラーリングこそアーンヴァルMk.2のリペイントテンペスタと似ているが、ペイントが違うため別物らしい。 ただし、戦闘前の掛け声(神姫決定時)等、性能以外でも細部が通常のアーンヴァルと異なっている。 また、内部的には別の神姫として扱われているためか、手作りの髪飾りでヘアエクステが消失したり、 ヘッドセンサーラシュヌ、ユニコーン改などを装備すると後頭部の描画が軽くバグったりする。 声優 阿澄佳奈(ひだまりスケッチ:ゆの、WORKING!:種島ぽぷら、他) デザイナー 島田フミカネ(ストライクウィッチーズ、メカ娘等) 素体性能 LP ATK DEF CHA DEX SPD 400 45 42 40 20 4 プラス補正アビリティ 攻撃力+3 小剣、大剣、ランチャー+1 マイナス補正アビリティ 防御力-3 斧、浮遊機雷-1 ライドレシオMAX時の上昇能力 防御力、武器エネルギー回復、スピード イベント アーンヴァルMk.2と同じ 固有武装装備時ステータス 色変更 色は編集者からみた色で、人によって見え方は異なります。 髪 A.淡紫(デフォルト) B.赤 C.青 瞳 A.赤(デフォルト) B.紫 C.黄
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ウサギのナミダ ACT 1-7 □ 翌日の日曜日、俺はやはり迷いながらも、ゲーセンに向かった。 井山と会って話をするためだ。 奴に会って話をしないことには、状況は何も進展しない。 ティアは渡せないが、雑誌にティアのあんな画像を載せることはやめさせなくてはならなかった。 井山と連絡を取ろうと思ったが、奴とは昨日のゲーセンで会ったのが初対面だった。 結局、俺はゲームセンターに行かなくては、井山と話も出来ないことに気が付いた。 念のため、ティアはおいてきた。 正直、ティアの落ち込みようは心配だった。一緒にいてやりたい。 だが、連れていって、またティアが傷つく姿を見るのも嫌だったし、井山に無理矢理奪い取られないとも限らない。 店の連中が来ていたら、それこそ無理矢理に奪われるだろう。 だから、俺一人で来ることにした。 俺はゲーセンに入ると、まっすぐに武装神姫のコーナーに向かう。 俺の姿を認めて、店内が少しざわめいた。 かまうものか。 店に来なければ、果たせない用事なのだから仕方がない。 大城が俺の姿に気がついて、すぐに寄ってきた。 「おい、遠野……しばらく来るなって……」 「井山は来ているか?」 大城の言葉を遮って尋ねる。 奴の名を聞いて、大城も理解したようだ。 「いや……まだ来ていないな……」 「昨日は来ていたか?」 「来た。お前が帰った後にな」 「じゃあ、今日も来るだろう……少し待つか」 「いや、待つって、お前よぅ……」 大城が口ごもる理由はよくわかっている。 そうでなくても、俺に向けられた視線は痛いほどに感じられる。 俺はよほど歓迎されていないらしい。 「井山とは、ゲーセンで会う以外に連絡の取りようがない。バトルするわけじゃないんだ。大目に見てもくれてもいいだろ」 「だけどよ……」 「どのツラ下げて、店に来た? 黒兎よ」 ハウリン・タイプの神姫を肩に乗せた男が、割り込んできた。 「ヘルハウンドの……」 「お前は出入り禁止のはずだろう」 「奴に……井山に話があって、」 「帰れよ。お前がいるのが、迷惑なんだ。そう言わないとわからないか?」 ヘルハウンドのマスターには取り付く島もない。 俺は急に悲しくなってきた。 ついこの間まで、バトルをしようと誘ってくれた奴だったのに。 こんなにすぐに、手のひら返したように、冷たい態度がとれるものなのか? あんたは、俺達の戦いの何を見てきたんだよ? 俺が一瞬、物思いに沈み、気がついたときには、バトルロンドのコーナーに来ているほとんどの客が俺に向かって罵声を投げていた。 「そうだ、帰れ帰れ!」 「お前なんかにバトルする資格はねぇ!」 「お前の汚れた神姫もだ!」 「迷惑なんだよなぁ、風俗の神姫の仲間と思われるのはさぁ」 「ていうか、ここに来ないで、風俗にでも行ってろよ」 「もう二度と来るな!」 こんな罵声を浴びせられる理由がわからない。 納得が行かない。 それでも、俺は叫び出したい言葉を飲み込んだ。 罵声を、甘んじて受けた。 そうしなければ、すべての道が閉ざされてしまうと思った。 拳を固く固く握りしめ、歯を食いしばって耐える。 俺は意志を振り絞って、固まってしまっていた両脚を引き抜くようにして、いまだ口汚く罵り続ける連中に背を向けた。 脇にいた大城に、 「奴が来たら、電話くれ。頼む」 「あ、あぁ……」 大城は頷いてくれたらしい。 今の一言を言うだけでも、重い口を懸命に開く必要があった。 俺はやっとのことで、ゆっくりと店の出口へと歩み始めた。 聞こえた言葉。 「あんな精液まみれのエロ神姫、使う気が知れねぇよなぁ!」 どっと、受ける気配。 俺の中でなにかが。 切れる、音がした。 怒りとか、悲しみとか、そう言う気持ちを踏みつぶして通り過ぎた、行きすぎた負の感情。 それが、心の奥から、どばっと噴出した。 真っ黒い感情は、タールのように粘液質なのに、あっと言う間に俺の心を塗りつぶした。 俺は身を翻すと、先ほどの言葉を発した一団に飛び込もうとした、らしい。 それが未遂で終わったのは、大慌てで後ろから追いすがった大城が、羽交い締めにしてくれたからだった。 「はなせっ! 大城、はなせぇっ!!」 「バカ、やめろ、遠野! やめろって!!」 押さえてくれた大城の腕から逃れようともがいた。 しかし、頭一つ分背が高くて体格もいい大城に、かなうはずもない。 身体はあきらめたが、心は前に出ている。 俺は今にも飛びかかりそうになりながら、先ほど笑った連中を睨みつけた。 視線で人を殴れたらいいと、本気で思った。 「ふざけるなよ……!!」 低く暗く、震え、かすれた声。呪いを吐き出しているような声。 「神姫は……! 神姫はマスターを選べないだろうが!! 神姫に身体売らせて金を稼いでいる奴も、金で神姫を汚して悦んでいる連中も、みんな人間じゃないか!! マスターが命令すれば、神姫は嫌でも、どんなことでもしなくちゃならない。 神姫に何の罪がある!? 何度も何度も心を引き裂かれるような思いをして……傷ついているのは神姫だ! それなのになんだよ!? 追い打ちをかけるみたいに、勢いで罵声を浴びせて、おもしろ半分にあざ笑って…… お前ら、それでも人間か!? それが人間のすることかっ!!!」 口にしてはじめてわかった。 俺が許せなかったのは、俺たちがバトルできなくなることでも、俺が痛い思いをすることでもない。 ティアを無神経に傷つける行為が許せなかったんだ。 その場にいた誰もが口をつぐんでいた。 俺はさらに言葉を重ねたかったが、うまく口から出てこない。 心の底からマグマが吹き出すように煮え立っているのに、表層の意識は、いまの言葉を放ったところで、奇妙に冷静になっていた。 そうだ。こんな連中は人間じゃない。 ならば、ここは俺のいる場所じゃない。 俺が異物であるのも当然だ。 俺の身体から急速に力が抜けた。 大城の腕を振り払い、うつむきながら立つ。 「もう、二度と来ない」 吐き捨てるように言って、俺はきびすを返した。 さっきまで脚を動かすのに苦労したのが嘘のようだ。 俺はしっかりとした足取りで、足早に出口へと向かった。 一刻も早く、この店から出たかった。 未練さえ、欠片も残っていない。 もうこの店でバトルする事もない、という感傷さえ思い浮かばず、俺は自らの意志で、この店との関わりを切り捨てた。 それで、自らの夢が絶たれるのだとしても。 俺が店から出ると、三人の男がこちらに向かってくる姿が目に入った。 冷えていた俺の心の水面が瞬時に沸騰した。 俺はその男たちに駆け寄ると、真ん中の太った男の胸ぐらを掴みあげた。 「井山……っ!」 「おや、君は……ひゃはっ、どうしたんだい? そんなに怖い顔しちゃって」 おどけたような口調で言う。 からかっているのか。 こっちが完全に喧嘩腰だというのに、奴は全く動じていない。 「貴様……どういうつもりだ……」 「ん? なにが?」 「ティアの……あんな姿の画像を雑誌に載せるようにし向けたのは、貴様だろうっ……!」 「ああ、君も見てくれたんだ? よく撮れてただろ? アケミちゃんのエロエロな格好がさぁ」 こいつは自分がティアの画像を提供したことを否定さえしない。 まったく悪びれていないのだ。 俺は、井山の胸ぐらを掴む手に、さらに力を込めた。 井山の取り巻きの二人は、最初は俺の出現に驚いていたようだったが、井山が俺に絡まれていても、止めようともせずにニヤニヤ笑っているだけだった。 「よくも……自分がオーナーになりたい神姫の……あんな画像を……公表できるもんだな……」 「あんな画像も何も……アケミちゃんは、はじめからああいう神姫だろ?」 「貴様はっ……! 神姫の気持ちを考えたことがあるのかっ!?」 「神姫の気持ち?」 井山はさも不思議そうに首を傾げ、そして、こうのたまった。 「そんなの、考えるわけないじゃん、おもちゃの気持ちなんてさぁ! そんなこと考える方がおかしいんじゃないの?」 「な……」 「アケミちゃんは、ああいうことをされるために生まれてきた神姫なんだよ。そういう運命なんだよ。だから、無理矢理バトルロンドで戦わされるより、ボクに奉仕している方がよっぽど似合ってるよ」 「なにが……運命だっ……!」 俺は頭がおかしくなりそうだった。 俺が今まで出会ってきた武装神姫のオーナーたちは、程度の差こそあったが、誰もが神姫をパートナーとして大切にしていた。 だが、こいつは何だ。 平気な顔で神姫にひどいことができる。そして、神姫はそうされることが当然だなんて……そんな奴が神姫のオーナーであっていいのか。 「だからさぁ、さっさとアケミちゃんを譲りなよ」 「なにを……」 「だって君、いまバトルロンドできないだろう? アケミちゃんみたいな神姫じゃ、誰もバトルしたくないよね」 「……」 「君の好きな神姫を買って、アケミちゃんと交換してあげるよ。そしたら、君はバトルロンドにまた参加できる。ボクはアケミちゃんとイイコトできる。それが一番いいんじゃない?」 その話に一瞬でも心が揺れなかったと言えば、嘘になる。 このままじゃ、俺達は前にも後ろにも進めない。 だが、しかし。 「貴様……ティアを……手に入れたらどうするつもりだって……?」 「決まってるじゃないか。可愛がるんだよ! 雑誌の記事みたいなことをしてさ、毎日毎日、こってりとね。ひゃはははは!」 「そんなことをしたら、ティアは苦しむばかりじゃないか!」 「あったりまえじゃないか。アケミちゃんはさぁ、苦しんでる姿が一番可愛いんだよ。そういう神姫なんだよ、こってり可愛がられるために、生まれてきたのさ、きっと」 話が通じていない。 俺とこいつの話は、根本から食い違っている。 神姫が苦しむ姿が、一番可愛いだと……? 「……ふざけるなっ!」 俺は井山を突き飛ばした 俺の乱暴な行為も意に解せず、奴は余裕の態度を崩さない。 「貴様の様な奴に……ティアを渡せるもんかよ!!」 「ふふん、そう言っていられるのも今のうちさ」 「……なにを」 「あの雑誌の編集者がさぁ、ボクが持ち込んだ企画、気に入ちゃってねぇ。 また、今週発売の号で、載るよ。今度はもっとエロいのがね!」 なんだと。 こいつは、この間のだけでは飽きたらず、まだティアを貶めようと言うのか。 「やめろ……これ以上、ティアを傷つけるな、苦しめるなっ!!」 「やだね。これからもまだまだ載るよ? そうしたらそのうち、アケミちゃんでバトロンどころか、連れて歩くこともできなくなるよね! ひゃはははは!」 「そんなの、お前だって同じだろ」 「ボクはいいんだよ。だって、アケミちゃんを外になんか連れ出さないで、ずっとボクの部屋で、こってりと可愛がるんだからね」 俺の脳裏に、ティアの顔が思い浮かんだ。 あの時。はじめて公園に連れていったあの日。 ティアはその広さ、明るさに驚いていた。 はじめてレッグパーツを装着して、公園で走ったとき。 ティアはとても嬉しそうに笑っていた。 笑っていたんだ。 それを奪われるのか。 こいつの元に行ったら、ティアは二度と外の風を感じることもなく、薄暗い部屋の中で、ただ怯え、苦しみ、泣き叫び、心が磨耗していくだけの日々を送るっていうのか。 そんなことは、どうしたって……許せるはずがない! 「渡さない……どんなことがあっても、ティアは決して渡さない!」 「いいや、いずれきっと、君はボクに泣きついて来るさ。だってバトルもできなきゃ、外に連れ出すこともできなくなるんだからね! ひゃははは!!」 井山の高笑いに、俺はせめて睨みつけることで、反抗するしかなかった。 正直、奴の話には現実味があった。 ティアを俺の神姫として活動する方法を、今の俺にはまったく思いつかない。 俺はまた、拳を強く握りしめ、耐えるほかにはなかった。 「そうそうこれ……」 井山はポケットから一枚の紙片を取り出し、俺に差し出した。 「ボクの連絡先だよ。アケミちゃんの件なら、いつでも連絡していいからさぁ」 俺の目の前にいる三人が大笑いした。 俺は……どうすることもできなかった。 無力だった。 この連中のいやらしい笑い声すら止めることはかなわない。 せめてできることは、井山が差し出した名刺をたたき落とし、走ってその場から逃げ出すことくらいだった。 後ろから井山が何事か言ったようだったが、よく聞き取れなかった。 情けなかった。悔しくて、頭に来てもいたが、結局何もできない自分が一番腹立たしい。 あんな奴に好き放題言わせて、それでも何もできずに見ているしかない俺は……なんと情けない男なのだろう。 裏通りの路地。 俺はいつしか立ち止まっていた。 「お、お、おおおおおおぉぉっ!!」 吠えていた。 負け犬の遠吠えだ。 吠えながら俺は、路地の薄汚れた壁に、拳を叩きつけた。何度も何度も、力一杯叩きつけた。 やり場のない負の感情を、壁に向かってぶつけていた。 なんだか、殴りつけている壁に赤い染みが出来はじめた。 叩いている右の拳の感覚がない。 時々、手の指あたりから、鈍く嫌な音が聞こえた。 だが、無視した。 俺は壁を叩くのをやめなかった。 ただひたすらに、その行為に没頭していた。 いつまでそうしていただろう。 「っておい!? 遠野!! おまえ、ちょ……なにやってんだ!!」 野太い大声が俺を呼ぶ。 そして、ひたすらに動かしていた右腕を、力任せに掴んできた。 「はなせ!! 大城っ!」 「バカ!! 手が血塗れじゃねぇか!! いてえんだろうが!」 「こんな痛み、ティアが受けた痛みと比べようがないっ!!」 それでも大城は、俺の右腕をがっちりと掴んで、放さないでいてくれた。 「遠野、お前……」 「それでも……おれは……ティアの痛みを分かちあってやることさえ出来ない……あいつの涙を、止めてやることさえ出来ない……おれは……おれは……っ!!」 もう言葉にならなかった。 俺は狂ったように慟哭した。 次へ> トップページに戻る
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第1話「事の発端」 「あ~、ご主人様遅いなぁ」 出窓から小雨の降る外を眺めながら、溜息をつく。 「ね~白ちゃん、ご主人様どうしたのかなぁ?」 クッションの上に寝そべりながらテレビを見ていた白ちゃんに声をかける。白ちゃんは 「ご主人様も仕事で遅くなることはあるって言っていたでしょ? 人間には色々面倒なことがあるの、あなたも分かってるでしょ?」 なんて、クールな事をいってたしなめてくる。でも白ちゃんもさっきから、車の音がするたびに玄関のほうをばっと向いて、玄関が開く音がしないかじっと耳をすませている。 やっぱり白ちゃんも心配なんだ。マスターが何で帰ってこないのか、様子だけでも見に行きたい… この部屋はボクたちが暮しやすいように大部分のものがボクたちのサイズで作られている。 この出窓へ上がるのも、ご主人様が日曜大工で作ってくれた手すりまで付いた階段を使っている。 でも、元が人間用だった部屋だけに備え付けられたものの殆どは人間が使うための大きさだ。 ドアをあけるドアノブも、ボクらの手が届かないはるかな高みに存在している。 普段は「火事か地震の時以外は部屋から出てはいけない」と言われているから、それで問題ないんだけど、外の様子が見たい今は大きな壁となって立ちふさがる。 「どうやって開けるか、それが問題だ」 腕を組んで頭をひねるボクに、白ちゃんが訝しげな顔で 「ねえ黒ちゃん、何かろくでもないこと考えてない?」 なんて聞いてくる。そうだ! 「ねえ白ちゃん、白ちゃんの武装ユニットを貸して欲しいんだけど!」 「え? う、うん」 「じゃ、借りるね!」 「え? ど、どうする気なの?」 暇つぶし! と言い捨てて武装がしまわれている棚へ走る。白ちゃんの武装なら飛べるからノブにも手が届くはず。 てきぱきと武装を身につけ、身体を宙へ浮かべる。 「ねー、何するの?」 白ちゃんがボクを見上げながら問いかけてくる。 「ご主人様を迎えに行くの!」 笑顔でそう応えたとたん、白ちゃんの顔色が変わって、必死でボクに降りるよう言ってきたけど、ボクはやるって決めたら絶対やるもん! ドアノブに抱きつき、捻る、ガチャ…。捻る、ガチャ…。捻る、ガチャ…。捻るには捻れるけど、ドアを開けることが出来ない。 ご主人様は軽々やれることなのに。武装神姫なんて、大仰な名前が付いているのに、何でこんなに非力なんだ う。 でも挫けていられない。別の方法を考えないと… この部屋から外に通じているのは、…そうだ、出窓がある。出窓の鍵も普段は手の届かないところにあるけど、飛んでいれば届く。 ボクは方向転換し、窓の鍵に飛びつき、推力を落として体重をかけた。ググッ、カシャン! やった! バランスを崩して落ちそうになったけど、この窓はボクらの力でも何とか開けられることは知っている。 武装の力を借りれば一人でも空けられるはずだ。 ボクが窓に悪戦苦闘している間に、白ちゃんが出窓へと駆け上がってきた。 「黒ちゃん! だめ! 外は危ないって言われてるでしょ! しかももう夜なのに!」 でも一足遅い、ボクはもう出るに十分に窓を開け、外へと身を躍らせた。 後ろから聞こえてくる、白ちゃんの絶叫に罪悪感を感じながら… しとしとと降り注ぐ雨が関節に染み込んで気持ち悪い。神姫はお風呂には入れるくらいの耐水性能があるけど、同じ水なのに、お風呂と雨では全く受ける感覚が違っている… ブルッと身震いして、玄関のほうへ翼を向ける。 真っ暗で、外から見る家は、いつも住んでいる家のはずなのに、不気味で冷たくよそよそしいお城みたいだとなんとなく感じた。 出窓からも見える駐車場には、寒々しい空白が広がっている。こんなところでも、ご主人様の不在を重く認識させられる。 「ご主人様…」 愛しいご主人様の名も、口に出すと、寂寥感が胸の奥からこみ上げてくるだけだった。 「何で帰ってこないの…?」 ふらふらと、家の前の道路にまで漂い出る。さっと影が払われ、まばゆい光が 「え?」 ヘッドライト! 車が来たんだ! 身をかわさないと! キキーッ! バチン! 「キャーーーーッ!」 物凄い衝撃。翼が砕かれ、きりもみ回転しながら地面に叩きつけられる。身体がバラバラになるような、ショックで悲鳴まで飲み込んでしまう。 何度かバウンドし、それが収まったときには、本当にボクの身体はバラバラになっていた。両手は肘から吹っ飛び、腰が砕け、下半身がどこかへ行ってしまった。 車から誰かが慌てて降りてくるのを知覚したけどボクは 「人間だったら絶対助からないよね…」 なんて呟いて、そのまま意識を失ってしまった。 う~ん、なんだろう。身体が動かないや。バッテリー切れかな? でもそれなら視界の隅に電池切れ! ってでるはずなんだけどなぁ? 何か聞こえる…ボクを呼んでる? 「…黒子…しっかりしろ…」 「…起きて…黒ちゃん…お願い…」 ご主人様と白ちゃん。どうしたんだろう…? 「な~に~?」 声を出した瞬間、一気に全てがはっきりした。そうだ、ボクは車に… 「黒ちゃん!!」 「黒子! よかった、生きていたか…」 白ちゃんがガバッと抱きついてくる。目を開けると、ご主人様が目をこすりながら「よかった…」を連呼している 「黒ちゃん! あなたなんて馬鹿なことしたの! ぶつかった車がご主人様のだったからすぐに手当てして上げられたけど、両手も両足もなくなっちゃって、体中傷だらけで…うぅ、うわーーん!」 「俺も、あんなにスピード出していなければ、ぶつかる前に止まれたのに…うぅっ」 ああ、ボクはなんて馬鹿だったんだ。ご主人様が帰ってこないはず無いのに…余計な心配をさせてしまって…涙まで流させてしまって… その後、火事や地震でもないときに部屋どころか、家から出てしまった事を一杯怒られた。それだけでなく、 「身体だけなら交換で何とかなるけど、頭部にもダメージがあるから、メーカーに送らないと修理できない」 って、言われて、メーカーに修理に出されることになっちゃった。 でも、ご主人様がボクを箱に詰めるときに、ぎゅっと抱きしめてくれて 「早く元気になって、帰って来いよ…」 って、優しく囁いてくれた。しばらくご主人様にあえなくなるのは寂しいけど、ちょっとだけ幸せ。ちょっと現金すぎるかな? ボク… SSS氏のコラボ作品はこちら 続く
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凪さん家の十兵衛さん 第六話<朝霧の紅眼> それは誰も知らなかった。 それはついに姿を現した。 しかしそのすべてを見た者はいない。 残るのは、紅き殺意の記憶のみ…。 <凪さん家の十兵衛さん第六話『朝霧の紅眼』> 「全小隊!第三小隊の活路を開け!今日で決めるぞ!」 『了解!』 私達は進撃を始める。 既に敵は大軍勢で待ち構えていた。 『ふふふ…待っていたわよ…さぁ、踊りなさい…私の歌で』 「くっ!」 私達の前に立ちふさがった神姫達がいっせいに同じ単語を発する。 私達は身構え、覚悟を決める。 「皆!行くよ!」 『ラジャー!!』 私達の勢いが増す。今日はいける。絶対にやれる!今日こそ終わらすんだ! 迫りくる操られた神姫達。手には今までの戦いで奪ってきたであろう様々な武器が装備されていた。 「はぁぁぁ!」 私はそれらを電磁警棒の一撃で黙らせる。別に今回に限ったことではないが、作戦はあくまでも「原因となる神姫の確保、または撃破」である。 そのため、私達の基本装備は電磁警棒と、相手に文字通りの衝撃を与える弾丸を放つショックライフルだ。 もちろんしっかりとした装備も持たされてはいるが、それを使うことを許される相手は敵の武装神姫 「セイレーン…」 だ。あの屈辱…必ず倒してやる。 それに…そんなこと考えたくも無いが…たとえ私がやられても、今回はあの「十兵衛」ちゃんがいる。 今まで私が見た神姫の中で過去最高の狙撃能力を持ち、確実に相手を撃ち抜く心眼の持ち主だ。 どうやら巷ではその名前に合わぬ攻撃スタイルから「銃兵衛」と呼ばれていたり、 または左目の眼帯姿から、見た目そのまま「隻眼の悪魔」と呼ばれていたりする。 まぁこちらに関しては「隻脚の悪魔」タイプストラーフ「ルーシー」と混同される可能性 (リーグクラスが違うのだからありえないのだが…)が危惧してか、あまり使われることは無いのだが。 「くっ…」 な、それにしてもなんだこの数は…。この前とは比べ物にならない…。 その数ざっと五十体以上はいるんじゃないだろうか。 それに対してこちらはいっても三十…。 くそ、なんでこちらから出向いたのにこちらの防戦一方なんだ。 おかしいではないか。私達は攻めているのだから。 早くあの憎きセイレーンを早く見つけ出さねば! 「セイレーン…」 ええい、そんな綺麗な名前、あの天使型には似合わない…。今日以降その名は名乗らせない! ピ-ン… 「えいやぁ!」 バリバリバリ!! 電磁警棒がうなりを上げる。 その瞬間…風…。 …何か感じる…この路地の向こう…この気持ち悪い感覚。 「いる…」 あの時の恐怖が甦ってくる。怖い、怖い怖い怖い…そんな記憶を、感情を押し殺して私は白銀の翼で翔けていく。 「そこに…そこにいる!」 路地のつき当たり…。 白い羽の悪魔がそこに佇んでいる。 「ふふ…来たのね…かわいい天使さん」 「はぁ…はぁ…」 相手から発せられる強烈なプレッシャー。殺意、欲望…そんな黒い物が私に覆いかぶさってくる。 ぐ、負けない…絶対負けない!! 「せ、セイレーン!!!覚悟!!!」 「あら…。乱暴ねぇ!!」 私は電磁警棒とライフルを排除し、ライトセーバーを構えて突進した。 今度は私が貫いてやる! いくら十兵衛ちゃんがいるといっても、彼女だけにすべてを背負わせるわけにはいかない! 彼女はせっかく地上に戻って明るい世界を取り戻したのだ。裏の世界に干渉させたくはない!十兵衛ちゃんの出番が無いほうが良いに決まっているのだ。 さっきはやられても…と言ったが、いや、やられるわけにはいかない! 「はぁぁぁぁぁぁ!!」 「ふん、美しく無いわね…」 セイレーンはひらりと攻撃を受け流した。 私は突き貫いた剣先を翻し、もう一振りする。 「やぁぁぁ!!」 「ふふ、どうしたの?こっちよ?」 またもやかわされる剣。 「ミーシャ!落ち着け!見切られている!」 「り、了解!」 くそ、私としたことが…焦っているとでもいうのか! 私は剣を構えなおす。 「ふふ、小手調べは終了かしら?本部の奴隷天使さん?」 「なっ!」 き、貴様…私が誇りを持っているこの地位を「奴隷」扱いだと…! 「ふ、あなたが犬型だったならちょうど良いのに…ねぇ?」 「き、貴様ぁぁぁぁぁ!」 こいつ!絶対に許さない! 「ふふふふふ…いいわ、その表情…さぁ、もっと怒りをあらわになさい!」 「ふ、ぐあ!み、ミーシャ…」 と、私とセイレーンの声以外の声が響く。 「!?」 振り向くとそこには様々な神姫達に雁字搦めにされた犬型、ハウリンがいた。 あの装備、あれはまさしく私達の部隊の第一小隊隊長神姫だ。 「シン!!」 無事だったんだ!まだ生きていてくれた!私はその事実に素直に喜んだ。 「ふふ…呑気ね…喜んでいて良いのかしら?」 「なに!?」 「う、うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」 シンにまとわり付いた神姫が動き出す。 「シン!!!!!!」 「さぁ、お聞きなさい…美しい歌を…叫びの歌をね!!」 そう言うと無数の神姫達がシンの全身に力を加える。 「ぎあぁぁぁぁぁ!!!!」 「シン!!!」 私はシンを救うべく下降、電磁警棒を拾い上げブースターを噴かした。 が…。 「はぐぅ!!」 私の背後からチェーンが飛び出し、そしてそれは私の首に巻きついた。 「ひぁ!」 背部に強い衝撃が走る近づいていたシンとの距離が離れていく。 「し、シン!」 「み、みー…シャ…」 「ふぐっ!」 真横にはいつ間にか、セイレーンの歪んだ笑顔があった。 「ふふ、そうはさせないわ…貴女には十分に味わってもらわなきゃね」 そう言って私の首に巻きついたチェーンを引く 「ぐ、ぐぬぅ…」 「さぁ!私のかわいい人形達!その哀れな犬に悲痛な歌を歌わせてあげなさい!」 「ぐ、ぎ…あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁ!!!!!!」 「シン!!!!!」 「あなたはまだおとなしくなさいな」 「ぐっ…!」 チェーンの締りが強くなる。 「シ、ン…」 「さぁ、楽しみなさい…思う存分ね…ほうら御覧なさい」 「ぐあぁぁぁぁぁあぁぁぁ!」 まとわり付いた神姫がシンの腕を持つ、既に腕部アーマー類は剥がされて素体部分が露出しているその腕を、本来曲がるはずの無い方向に曲げようとする。 「あ、あが、ぎ!!がぁぁぁぁ!!」 路地裏の攻防が行われている喧騒の中、シンの叫びが木霊する。 「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 私は叫ぶ、叫ぶことしか出来ない。 「まずは~み~ぎっ…」 と甘ったるい声でセイレーンがつぶやく。 びき、ぷち、ばち…ぼき…シンの右腕が悲鳴を上げる。それとともにシン自体も悲鳴を上げ、残酷な二重奏を奏でる。 「が!うぎあぁぁぁぁぁ!!!!」 「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ふふふふふふ…」 バギャアァッ!!!腕がへし折られる音がした。 「がはぁ!!!!……」 崩れ落ちるシン。 「シン!シン!!!!!」 「ふふ、おねんねしちゃったのかしら?でも~さ~せない…!」 神姫がシンの右足を持ち上げた。そしてその膝を。 ベギッァァ!! 「っっっっつ!!!ぐぁ!!!」 シンがその痛みに耐え切れずビクンと反応する。 その顔は涙やら涎やらでぐちゃぐちゃに汚れている。 「あ、あが…う、うぅぐ…」 「いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!やめてぇぇぇぇぇ!!!」 「ふふふ、まだまだ…お楽しみはこれからよ…」 「ぎはぁぁぁぁ!うが!あぁぁぁ!!!!」 ごぉごぉごぉごぉ…。風が強い。作戦が開始されてすでに一時間…一体今下では何が行われているのだろうか。 私達…第X小隊は私を中心にX2さんが右側、X3さんが左側の警護をしている。 私はというと、レーザーライフルを構えた射撃姿勢のまま来るべきチャンスを狙っていた。 「皆、大丈夫なのかなぁ」 私は視線を動かすことなく口を開く。 「回線が時折混乱しているが、まだ全滅はしていない。膠着状態かと」 と右側から声。 「そ、そうなんですか?」 「ええ、あなたももっと落ち着きなさい」 とX2さんに言われてしまった。 「は、はい…でも…」 「?」 「ただここで見ているしか出来ないなんて…」 「何を言ってるの?」 左から声。 「え…」 今度はX3さんが口を開く。 「貴女の任務は「目標神姫の狙撃」でしょう?貴女はは何もしていないわけでは無いわ。 狙撃は非常に高度な技術。それをするあなたは間違いなく今回の鍵よ」 「X3さん…」 「だから自信を持ちなさい。皆あなたを信じている」 「はい…」 そうだ、私には皆がついている。皆私を信じてくれているんだ。応えなきゃ、皆の想いに! 「しかし…まだ狙撃ポイントに連れ出せてはいないようね…」 「電波状況が悪くて状況が把握しづらい…注意が必要だ」 「十兵衛さん、貴女はただ撃つ事だけに集中して頂戴。それ以外は私達が何とかするわ」 「は、はい」 私は左目のカメラを起動し、確実に相手を射抜くためにライフルを構えなおした。 「ま、目を瞑ってでも当ててみせるけど」 私の中の何かがそうつぶやいた。 「がはぁ…う、うぬぁ…」 ドサッ 崩れ落ちる音。勇ましき戦士は見るも無残な姿になっていた。 「ふふ、どうかしら?」 悪魔のささやきが路地に響く。 「う、うぅ、いやぁ…も、もうやめてぇ…」 泣き崩れる天使。 「ええ、もうじき終わりにしてあげるわよ?」 「え」 「ぐはぁぁっぁぁぁぁあぁあぁぁぁああぁ!!!」 ベキ…ミシ…ベキベキ 「だって~、もう体しか音を奏でられる箇所が無いんですもの…」 シンの腰に負荷がかかる。 「あ、あが!がぎゃ!」 苦痛を超えた表情、その瞳孔も口も涙腺も既に開ききっている。 そして… バギャ!今までで一番大きな破壊音がした。 「がァxかおgbじゃgじぇrjgぽあrkごあr!!!!!!!!」 その音の主は声にならない音を発した。その瞬間、シンと呼ばれていた犬型武装神姫は機能を停止した。 「あ、あぁ…」 「ふふふ、お楽しみいただけたかしら?」 「…」 この野郎… 「?どうしたの?何かご感想は?」 「…」 ふざけるな… 「あまりにも美しすぎて声も出ないかしら?」 「る…せない…」 私の仲間をよくも… 「…?なぁに?」 「許せない!!!!!」 私は拳に力をこめた 「ぐ!?」 「おまえだけは…おまえだけはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 私はセイレーンに向かって突進。体当たりで衝撃を加え、そのままスラスターを最大に噴かして急上昇し、路地から遥か上空まで飛び上がる。 「な、何を!?血迷ったのかしら!?」 「うるさい!この醜い悪魔めぇぇ!!!」 私はセイレーンにありったけの拳を打ちつけた。 「くっ!!」 「この!この!このこのこのこのぉぉぉ!!!!!」 私は憎悪をこめて拳を振り続ける。 その内の一発が顔に当たる。 ガシィ!!! 「!」 セイレーンが私の拳を受け止める。その手の先には歪みきった悪魔の表情。 「言ってくれたわね…この私に醜いと…良いわ、そして…今!この私の顔に傷をつけた罪…死をもって償うがいい!!」 「!?」 「アーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」 その顔が口を開け、戦慄という名の歌を歌いだす。 「ぐぅぅぅぅ!!!!」 再び襲いくる精神波。 「アーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」 「く、ぬ…負けない…負けるもんかぁぁぁ!!」 私は拳を握りなおし、構えなおす。 「やぁぁぁぁぁぁ!!」 「アーーーーーーーー!?」 怒りの鉄拳がセイレーンの頬に強烈な一撃を加える。 あまりの衝撃に吹っ飛び、落ちてゆくセイレーン。 しかし途中で体勢を立て直す。 「く、…やったわね…一度ならず二度までもぉぉぉぉぉ!!!!」 セイレーンは上空高く飛び上がり、手を広げた。 「じゃあこれはどうかしら!!!!」 キィィィィィィィィィィィン 「!?」 声じゃない。音としては感知できない。しかし確かに感じる。 「あ、あが…うぐうぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 頭が押しつぶされそうな感覚が襲う。 が、 「うぐ!?」 歌が止まった。その歌の主、セイレーンを見る。 「はっ…」 頭を貫く一筋の青い光。レーザーライフルのそれだ。 「まさか…そうか!十兵衛ちゃん!」 その光の大元、そこを辿る。その先には紅眼の狙撃兵がいた。 「!?」 上空に飛び上がる光が見えた。左目の能力を駆使してその光の正体を見る。 「リミッター解除………!ミーシャさん!!じゃああの神姫が…」 セイレーン…ね。 まただ…私の中の私がささやいた。 さ、交代の時間よ…。 え…? あなたはあなたに出来ることをしたら良いの。だからここは私に任せなさい、十兵衛。 あなたは誰? あら、忘れちゃったの?あなたよ?私はあなた、あなたは私。 あなたは誰? そうね…面倒だから銃兵衛にしておきましょう?だって私の出番は今だけだし。 銃兵衛さん? そう、あなたの狙撃能力を司る者。私は銃兵衛…。もう一つのあなた。もう時間が無いわ。 これ以上の犠牲を出したくないなら変わりなさい。私に。 …銃兵衛さん…分かりました。お任せします。 OK。 「X3、周囲を警戒!」 「了解、X2!」 「やるわ…」 眼帯システム完全起動。全システム同期開始。目標コア検出。電源系統検索。記憶領域を残しつつ、機能を停止させる。 って…ちょっと…接近し過ぎ…。これじゃミーシャ、あなたに当たってしまうじゃない。それにしても…あの子結構漢ね…。 理由は、さっきからミーシャがセイレーンに振り上げた拳を何度も打ち付けているから。 ん?…セイレーンが何かし始めた…。 と、思いきやミーシャの追撃が決まる。墜落するセイレーン。 が、セイレーンがキリモミ飛行をしながら上昇。もう…軌跡の予測が難しいわね… そしてまた動きが止まる。 セイレーンは手を広げ、口を開く。ふふ…隙だらけよ?じゃあ撃たせていただこうかしら。 「っ!?」 いきなり強烈な違和感が襲う。あと少しだったのに…なんなのこの気持ち悪い感覚は…。 「敵の精神波!こんな所まで!」 X3が叫ぶ。ちょっとあまり大声出さないでくれる?万が一という事だってあるのだから。見つかったらどうするの? 「十兵衛さん!」 今度はX2。 「はぁ…わかってるわよ…」 そう、今ならセイレーンは動いていないし、確かに今しかないだろう。 集中するには少し頭が痛いけど。 私は狙いを定め、セイレーンに向かって引き金を引いた。 ズキューーーン! 青白い閃光が照射される。 漆黒の闇を突き進む光。その光はセイレーンの頭部を目掛け、貫いた。 撃たれたセイレーンの顔は驚きに満ちていた。 そしてこちらを向いて?不気味な笑みを浮かべ、墜落していった。 まったく気味が悪い…。 ミーシャがそれを追う。 「やったか!!」 喚起の声を上げる兎兵 「いえ、まだ油断は禁物よ…確認が終わってから安心しなさい」 「え…?あ、はい…」 なに?その表情…そんなに驚くこと言ったかしら? 「一応周囲の警戒をお願いね」 そう言うと私はもう一度、撃った方向に顔を向け視線を定めた。 やった…? 目の前には墜落し、ばらばらになったセイレーンだったものが散らばっていた。 ガチャ… 私はその残骸の中から一つだけ拾い上げた。 「反応無し…よし…」 やった…。 「マスター…、マスター!」 「…ザザ…こえてるよ…ミーシャ」 「セイレーンのコアを回収しました!帰還します!」 「よし!よくやったぞ!」 震えが止まらない。やった、ついにやったのだ。 十兵衛ちゃんという頼もしい力のおかげだ。なんと礼を言ったら良いのだろうか。 とりあえずおもいっきり抱きしめてやろうかな。 「お疲れ様です!あとは我々に!」 回収班のヴァッフェバニーだ。背中には作業用にサブアームが接続されている。 既に回収班の展開が始まっているようだ。 「ええ、よろしくね」 「はい、では!」 私は後を任せワゴンへ向かう。 「了解」 X2がこちらをむいて。 「任務完了です」 と言った。そう、終わったのね…じゃあ私の出番は終わりかしら。 「ご苦労様…」 じゃ、十兵衛…また会いましょう。 え、は、はい…有難うございました…。 礼なんて良いのよ。じゃ、またね。 「…」 終わった…。 「十兵衛…さん?」 「へ?あ、はい!お疲れ様でした!」 「うぇ?え、えぇ…」 「どうかしましたか?」 「い、いえ別に」 どうしたんだろう?なんかぽけっとしてる。 「さ、帰りましょう」 とX2さん。 「はい!マスター!やりましたぁ!」 わたしはマスターに報告する。 「おう!さすがだぜ!!帰ったら赤飯だな!」 嬉しそうなマスターの声。マスター。十兵衛やりましたよっ! 「えぇ~なんか違う気がしますよ~」 「ははは、じゃあ待ってるぞ~!」 「はい!!じゃあ戻りましょうか」 「ええ」 そして屋上から降りる時。 「あ、そうだ…」 X3さんが思い出したようにこちらに近づいてきた。 「さっきの約束よ。名前、教えてあげなきゃね」 「あぁ、そうだったなX3」 「わぁい、やったぁ!」 「じゃあ私から…」 とX2 「私の名はマヤ」 マヤさんですか。 「短い間でしたが、お世話になりました」 「ええ、あなたのおかげで勝つことが出来たわ。こちらこそ有難う」 「いえいえ、そんな。照れちゃいます」 「では次は私ね…」 「そうだな」 「私の名前は…」 「はい!」 「…セイレーン」 『…!!』 私はワゴンへ向かう。外でマスターが待ち構えていた。 「お!ミーシャ!!」 マスターがこちらに向かって走ってくる。 「マスター!!」 私は飛び上がり、マスターの手に着陸する。 「お帰り、ミーシャ!」 「ただいま、マスター!」 「これか…」 マスターが私の持っているものを見る。 「はい、セイレーンの頭部コアです」 「よし、早速調べよう」 「はい!」 私達はワゴンへ向かう。その時だ。 「凪?」 凪様がワゴンから凄い勢いで降りてこちらへ向かってくる。 「お~い凪!どうした?」 「大変だ!!十兵衛が!!」 「ん?どうしたんだ?」 私とマスターは首をかしげる。 「…アラ…モウキヅイタノネ…」 「!?マスター!!」 「ミーシャ、それは!」 セイレーンの頭部が動き出した。 「フフフ、ザンネンデシタ…マズハ…ウサバラシニ、アノコヲコワシテアゲル…」 それだけ言い残して頭部は再び停止する。 「十兵衛ちゃん!!」 私はビルに向かって飛び上がった。 「く、くそ!!ミーシャ!!急ごう!!」 「十兵衛ぇぇ!!」 「ぐ、うぅ」 動けない…。 「ふふ、良い光景ね」 目の前には旧式の神姫の姿が。 「まさか私が本体だなんて気付かなかったでしょうね?うふふ」 「こ、このぉ」 私を羽交い絞めにしているのはX3さんをはじめとする無数の神姫。恐らくセイレーンに操られてしまっている。 「まったく…貴女やあの白い子は何故か操れないのよねぇ…ほんと残念」 「くっ!」 ガシィ。しっかりとホールドされてしまっている。 一方、屋上の端っこにはX2ことマヤさんが壁に打ち付けられていた。 「じ、十兵衛…さん…」 もう動くことだけで精一杯のはずだ、それでもセイレーンに向けて銃を構える。 「貴女もずいぶんしぶといわね?」 セイレーンがマヤさんの方へ向かう。 「な、なにを…」 「ふんっ!」 セイレーンはマヤさんが手に持っている銃を蹴り飛ばす。 「はい、丸腰」 「!?」 今度は顔。 「ぐはぁ!」 今度は踏みつけ。 「がは!」 「ふん、この雑魚風情が。あまり調子に乗らないことね」 「こ、このぉ!それ以上マヤさんに近づくなぁ!」 私はサブアームに力をこめる。 「そこ、黙っていなさい」 ビギィ! 「っつ!」 サブアームが悲鳴を上げる。 「ちょうど良いから少し痛い目見なさい」 「う、うあぁぁぁ!!」 サブアームに更なる負荷がくわえられる。痛覚が私に伝わり、苦痛が走る。 べキャッ! 「イッ!アァァァァァ!」 引きちぎられる巨大な腕。気が遠のきそうになるが、痛みがそれを許してはくれない。 「く…」 「ふふ…じゃあ歌ってもらいましょうか?兎さん?」 「え…」 そう言うとセイレーンはあの精神波を放ち始めた。 「くっ!むぅぅぅぅぅ!!」 頭が痛い。気持ち悪い…。 「きゃぁぁぁぁぁ!!」 「!…マヤさん!!」 「ふふふ、これであなたの体は私の意のままよ?ふふふ」 「う、うあ、ぁ」 「さて、じゃあ開演といきましょうか」 セイレーンはそう言うと、さっき蹴り飛ばした銃を拾い上げ、マヤさんを操って手に持たせた。 「じゃあまずはぁ~こうね!」 「う、いやぁ」 本人の意思を無視して、銃を持つ腕が上がる。そしてもう片方の腕に銃口が向けられ バァン!! 「ギャァァァァ!」 撃ち抜いた。 「マヤさん!!!」 「ふふまだまだよ?こんどはぁ~こ・こ」 そう言うと左足へ。 バァン!! 「ウァァァ!!」 ガクリと崩れ落ちるマヤさん。 「もうやめてぇぇ!」 私は叫んでいた。 それに対してセイレーンは笑顔で 「ふふ、何を言ってるの?こんどは~えいっ」 バァン!! 「ぐぅっぅぅぅぅ!!」 右足を撃ち抜いた。 「いやぁぁぁぁぁ!!」 もう見たくない!私は目をつぶった。 「あら?しっかり見なさいよ?」 「!?」 め、目が勝手にぃぃぃ! 「うふ、これくらいはあなたにも通じるみたいね?」 「い、いや、いやぁ…」 見たくないのにぃ!! 「さぁ続きよ?兎さん?」 「う、うぁ…」 バァン!! 「グホァ!!」 その銃口は腹部へ。 「いや、いやぁ…もうやめて、やめてよぉぉ…」 見ているしか出来ないのか私は!くそ!なんて非力なんだ私は!!泣き叫ぶ事しかできないなんて! 「ん~意外と盛り上がらないわね?」 な、なんて事を…! 「じゃあもう用済みよ。死になさい」 「!!」 バァン…!! ドサッ… その時、兎型MMS「マヤ」は自分のこめかみに銃を向け、ためらいも無く引き金を引いた。 しかしその表情は恐怖でゆがみ、涙を流していた。 「あ、あぁ…ま、やさん…」 声が出ない。今目の前で一体の神姫が死んだ…? 私の目の前で? この…。 「さて…じゃぁ次はあなたに歌ってもらおうかしら?」 許せない…。 倒したい…この神姫を、セイレーンを…。 ワレヲホッスルカ?ムクナジュウベエヨ…。 死にたく無い…私はもっともっと生きたい…マヤさんの分まで生きなきゃ… ワレナラバソレガデキル。カワレ、ワレニ…。 「さぁ、いくわよ。良い声で歌って頂戴」 セイレーンの手が私に伸びる。 いやだ、イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!! 寄るな!触るな!いや!いや!!いや! 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」 ギョイ…ワレニマカセタマエ… 「!?」 その時、目の前が真っ白になった。 う、うぅ…い、生きてる? あぁ…痛い…辛うじて無事らしい。 良かった。私は生きている。 重いまぶたを開ける。あ、あれは十兵衛ちゃん…霧?でよく見えないけどたぶんそうだ。 そしてセイレーンもいる…くそ…あいつめ…今度は十兵衛ちゃんが…!! 「な、なんなの!」 屋上に響くセイレーンの声…何? ヒュウウウウウウウ!!! 突風がふく。 霧が吹き飛び、中からライトセーバーを構えた十兵衛ちゃんが素体状態で姿を現す。 左目の眼帯に仕込まれたカメラアイが紅く光り、一種の不気味さを醸し出している。 「…」 無言で歩を進める十兵衛ちゃん。 「こ、この!!お行きなさい!お前達!」 十兵衛ちゃんに無数の神姫が迫る。 あ、危ない!十兵衛ちゃんじゃ! ブンッ! シュバッ! 容赦なく剣を振るう隻眼の悪魔。 え、そんな…。一瞬で神姫達の首が切り落とされる。 「ふ、なに?ずいぶんと残酷ね?あなた!」 セイレーンが言う。すると十兵衛ちゃんが 「…殺してはいない…」 と呟いた。 な、私は絶句した。生きている…。斬られた神姫のコアからしっかりと起動反応が出ている。 う、うそ…そんな馬鹿な…まさかコアと体の接合点のみを斬っているというのか? 「あ、あなた…」 たじろぐセイレーン。 「…貴様は斬る…」 一体どうしたというのだろうか。さっきの狙撃時もだが、まったく別人のようになっているではないか。 「え、えぇぇぇい!もっと!もっとよ!!」 そう言うとセイレーンの後方からおびただしい数の神姫が沸いて出てきた。 「やってしまいなさい!!」 セイレーンの指示により、十兵衛ちゃんに迫る神姫の群れ。 「…」 しかし十兵衛ちゃんは次々と神姫達の首を切り落とし、何食わぬ顔でセイレーンに向かって歩を進める。 その光景に私は味方ながらに恐怖した。いくら殺してはいないといっても、そのビジュアルは見ていて気持ちの良いものではない。 「…」 「ぐっっ!!な、なんなのよあなた!!」 「…」 「ええい!!いいわ!とっておきよ!!」 と言うとセイレーンは口を開け 「アーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」 歌いだした! ぐ、ぐはぁぁぁぁ!!頭がかき回される。だめ、今度こそ駄目!! 「アーーーーーーーーー!ガッ!?」 が、すぐに歌が止まる。 いつの間にかそこに十兵衛ちゃんがいた。 さっきまでセイレーンとの距離はかなり開いていた。 でも今、セイレーンの目の前にいる。 神速。そんな単語が出てきた。 そしてセイレーンの首には 「がっ!は…」 十兵衛ちゃんのライトセ-バーが突き刺さっていた。 「…十兵衛…」 十兵衛ちゃんは呟く。 「!?」 「…我が名は十兵衛…刻むと良い…」 「ぎ、がはっ」 セイレーンは声にならない音を発している。 「…刹那の見切り誤まりしが、運のつき…」 「!?」 その瞬間繰り出される剣戟。頭部コア以外のセイレーンのパーツがバラバラに切り刻まれ、舞い上がる。 「…秘剣…乱れ桜…」 十兵衛ちゃんはそう呟いた。 乱れ桜…確かにそうみたいだ…舞い上がったパーツがはらりはらりと舞い落ち、散る桜を連想させる。 綺麗…不覚にもそんなことを思ってしまった。 ピーピーピー…アラームが鳴る。 強制シャットダウンに移行します。と表示された。 そうか、さすがに無理しちゃったかな私…。 あぁ、まぶた重いや…それにしてもかっこよかったわよ…十兵衛ちゃ…ん。 そこで私の意識が途切れた。 俺は走る、ひたすら走る! 「はぁ、はぁ、はぁ!」 十兵衛!待ってろ!!今行くからな!! 階段を駆け上がり、一目散に屋上を目指す! 見えた!!あれか!!!俺はドアノブに手を伸ばし、一気に開く! ガチャン!! 「十兵衛!!!!」 こぉぉぉおぉぉぉぉ… 吹き抜ける風。朝日が出てきている。そうか、もうそんな時間なのか…。 朝靄が広がっている。 靄の間からビルが顔を出し、一種の幻想的な風景を見せている。 その靄の中。紅く光る左目を持つ一体の武装神姫が佇んでいた。周囲には大量の神姫が倒れている。見るとすべての神姫の首と体に分解されていた。 「じ、十兵衛…?」 その異様な雰囲気に息を呑む。 十兵衛は俺の声に気付き、振り向いた。 「…主…」 そう呟くとこちらに歩いてきた。 俺も十兵衛に向かって歩き出す。ある程度近づいたところでしゃがんだ。 「大丈夫か…十兵衛…」 「異常は無い…」 ぼそりと呟く 「主…後は頼む…」 そう言うと十兵衛は俺の手の中でぱたりと倒れた。 「十兵衛!?」 「くぅ~…」 寝息…か……びっくりしたぜ…。 きっと想像を絶する体験をしたんだろうな…。よくがんばったぞ…十兵衛。 「凪!十兵衛ちゃんは!」 「十兵衛ちゃん!!」 と創とミーシャが入ってくる。そんな二人に俺は人差し指を口に当てて合図した。 「し~~~~~」 「凪?」 「あ、十兵衛ちゃん…」 「寝ちまった。疲れたんだろ」 俺達は可愛らしく眠る十兵衛を覗き込んだ。 「よく寝てる」 とミーシャが俺の手に降り立ち、十兵衛の頭を撫でた。 「お疲れ様、十兵衛ちゃん」 「うん、そうだね。本当にお疲れ様、十兵衛ちゃん」 二人がねぎらいの言葉をかける。 「よし、ミーシャ、回収班に連絡を、後の事は任せよう」 「了解。マスター」 「凪」 「ん…」 「とりあえず本部に行こう。十兵衛ちゃんの損傷箇所やら武装やらを治さなきゃ」 「あぁ、そうだな」 俺は屋上から出る時、もう一度景色を見渡した。朝日が俺達を照らしている。 明るく、まるで太陽が十兵衛を祝福しているようだ。なんかそんな感じがした。 こうして、一つの戦いが幕を下ろし、新しい日々が幕をあけた。 第七話も読む
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赤い月が天窓に浮かぶ屋敷の広大なエントランスにて、銀色の輝く番犬が月光に照らされて鋭利な牙を光らせた。 その牙の先には床から壁から角から天井からと縦横無尽に跳び回る黒色と紫色の不躾者。 不躾ながらも一筋縄では往生しない実力者であるらしく、青いツインテールの彼女は既に何本もの番犬の牙から逃げ切っている。 されとて犬達の戦意は意気揚々と怖れず止まらず諦めずの精神を以て不躾者を仕留めてみせんと空を切った。 金属同士が鎬を削り合う際の荒い音が西洋風の屋敷の中で舞い踊ってはそそくさと舞台の外へ立ち去る。 既に何百と繰り広げてきた無骨な音の舞踏会は、しかし一人の役者と力不足によって台無しにされようとしていた。 ほんの僅かな隙、それこそ高名な評論家であっても見逃すであろう奇跡の隙間を番犬の一本が通り抜ける。 不躾者が自身の失態に気付いた時にはもう遅く銀色をした牙に腕一本を噛みつかれてしまう。 不意に受けた攻撃に反射的に動きを止めてしまった時にはもう遅く、番犬達の操り手であるメイドが静かに語り掛ける。 「殺人ドール。」 ミニスカートのメイド服を着たハウリンの宣言と共に服の袖から十本ほどの銀製ナイフが跳び出す。 少しの間ハウリンの傍に浮かんでいたナイフは、やがて犬の手を借りる事も無く独りでにストラーフへと襲い掛かる。 全てのナイフはその肢体を突き刺し刃の銀の光が暗闇に溶けていたフブキ型武装の黒と紫の色を明確に照らす。 本来なら今の一撃で決まっていたのだが、そうならなかったのはストラーフがナイフの一部を弾き飛ばしたからだ。 対戦相手の冷静な判断に敬意を称しつつもしかしながらハウリンは手を止めずに同じ技で雪崩れの如く押し崩しに掛かる。 「殺人ドール。」 十本の番犬が再び襲い掛かる。 さながら影の悪魔を仕留めんとする銀色の光弾にストラーフはハウリンを見据えたまま後ろへと跳んだ。 バックステップを踏んだ程度でナイフは避けられない、後ろへと跳んだのは前へと進む為だ。 鉤爪のような形をしているフブキ型のフットパーツと屈指の強力を誇る副腕であるチーグルを以て屋敷の壁に着地する。 そしてほんの一瞬、両脚と副腕を屈ませて、ほんの一瞬でも十分に溜まり切る力を解放し思い切りハウリンへと跳び掛かった。 だがそれは先に放たれた技であるナイフの群れの中へと踊り込む事を意味している。 そんな事は常々承知しているストラーフは必死の覚悟と共に素体の両腕で急所となる頭部と胸部のみを守る。 右目を貫かれようとも喉元を食い破られようとも腹部を刺し穿たれようとも太腿を噛み千切られようとも止まらない。 二体を隔てる距離が神姫一体分となりハウリンを射程距離に捕らえたストラーフは副腕を振り上げる。 「デモニッシュクロー!」 例えナイフを無尽蔵に貯蓄している不可思議なハウリンであってもこの必殺の悪魔の爪は避けれず防げない。 そう確信して放っていたのだがその爪がメイド服を切り裂く寸前、ハウリンの姿が忽然と消えた。 「!?」 瞬間移動や超スピードといったチャチな類では一切無く何の前触れも無く居なくなった。 一人その場に残されたストラーフは何が起きたのかすらも理解出来ず周囲を見渡しハウリンの姿を探す。 だがどこにも居ない、そう思っていた矢先、彼女は、ストラーフの後ろに居た。 「ようこそ私の『世界』へ。そして、永遠にさようなら。」 「なっ…!?」 ストラーフは下方向を除く百八十度全方位を優に百を超える無数のナイフに囲まれている事の気付く。 催眠術や超スピード等チャチな物では断じてない現実にハウリンは終わりを告げた。 「幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」!」 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァ!」 嵐の様なナイフが我が一番ナイフだと言わんばかりの猛烈な勢いでストラーフへと殺到した。 百を超える凶器に囲まれつつもストラーフはその眼の希望を夜闇に沈ませる事無く全身全霊を以て拳を振るい弾き飛ばす。 それでも尚、一本のナイフが肩に突き刺さり、一本のナイフが胸に突き刺さり、一本のナイフが副腕の接合部を破壊する。 「粘るわね…なら、駄目押しにもう一本!」 ハウリンが手を翳すとその手に何処からともなくナイフが現れる。 親指と人差し指で弾くように投げられたナイフは先行しているナイフをかい潜ってストラーフへと向かう。 ストラーフは先ずそれを弾き飛ばそうとし腹を殴ったが何故か奇妙な方向へと跳ねてそのままストラーフの頭部へと突き刺さった。 弾き飛ばされる事を計算に入れてナイフを投げたのか、そうだとすれば神業的な投擲技術である。 頭部を貫かれ両腕の動きが止まり抑制を失ったナイフに襲われ玩具の海賊船長の様な姿になったストラーフは崩れ落ちる。 だが崩れ落ちる寸前、手に持っていたハンドガンが火を吹いてハウリンの右肩を貫く。 完全に力尽きたストラーフのポリゴンの像が掻き消える瞬間にはあれほどの数のナイフは全て何処かへと消え去っていた。 勝者として一人残ったハウリンにジャッジマシンが祝福の判決を下す。 『ウィナー・サクヤ』 「最期まで勝利を望んでいたのね。貴方のその勝利への執念、このサクヤ、認めましょう。」 撃ち抜かれた右肩を抑えながらもメイドのハウリン、サクヤの姿が消え、そして誰も居なくなった。 …。 …。 …。 『刃毀れも大分ここに慣れてきたわね。』 バトルを終え、意識を現実世界の素体へと取り戻したイシュタルへと向けられた、サクヤの第一感想がそれだった。 黒野白太とイシュタルが今利用しているページは公式大会に出られない様な色物神姫とそのマスター達が集まる場所である。 偶然にもその場所の存在を知った黒野白太は一度そこでのバトルを覗いて以来、刃毀れというHNを使い色物神姫達との対戦を繰り広げていた。 今回の対戦相手、ハウリン型のサクヤは色物神姫達でも比較的穏やかな人物であり何度も戦っている強敵(とも)である。 そんな彼女にとって知り合いの成長と言うのは例えインターネットの回線を通しパソコンのモニター越しにしか知らなくとも嬉しいものらしい 『まぁ、もう百回は戦って負けてますからね。嫌でも慣れますよ。』 『大抵の神姫やそのマスターはここの連中と一度戦っただけでトラウマになるんだけど。負け慣れているのね。』 『ちょっとカッコ付けた台詞を言った後で結局負けた事もありましたから。そんじょそこらの敗北じゃ僕の心は傷付きませんよ。』 『それって竹姫葉月との戦いの時でしたっけ?』 『知ってるんですか?』 『御嬢様がテレビで見ていたのよ。』 『あぁ、成程。』 そう言えばあの大会の場にテレビカメラらしき物が回っていたような気もする。 黒野白太は眼中にしていなかったがあの大会には竹姫葉月以外にも高名な神姫プレイヤーがいたのかもしれない。 『でも、どんなに負けてもカッコ付けるのを止めない、そんな貴方に惹かれる人や神姫も居るのじゃないかしら。』 『居るとすればとんでもない根暗ですよ。僕、ファンレターとか一枚も貰った事ないですし。』 『貴方、手紙とか貰っても絶対に返さないでしょ。』 『勿論ですとも。ファンは自分の気持ちを伝えたくて手紙を送るのだから別に返さなくてもいいでしょう?』 悪い方向に歪みが無い黒野白太にサクヤは「やれやれだわ。」と扱いに困る子供を見る年上の女性のように優しく微笑む。 『それにしても前もその武装を使っていたわね。気に入ってるの?』 『ストラ・クモの事ですか。』 『ストラ・クモ?』 『初めはクモをイメージして組み立てたんです。ストラーフ型・クモ武装。だから僕は略してストラ・クモと呼んでいるんです。』 『実際の動きはバッタよね。ストラ・バッタにした方がいいんじゃないかしら。』 『その辺りちょっと気にしてるんですよ。後、ストラ・バッタじゃなんかカッコ悪いから嫌です。』 彼等が言う武装とはフブキ型の防具に初代ストラーフのリアパーツであるチーグルを組み込んだ武装の事である。 副腕で壁や地面を殴りつけて出す瞬発力と的確に相手の弱点を狙う柔軟性に重きを置いており急加速と急停止を繰り返す事で相手の撹乱させる戦法を主としている。足場となる物が多い屋内や障害物が多いステージでは無類の優位性を発揮し床と言う床を壁と言う壁を跳び回る姿は正にバッタと呼んでもいいだろう。 尤も黒野白太本人は初めはそういった特性に気付かず「クモっぽい」という理由から組み立てたものなので実際の性能がどうであれクモと呼ぶ事に固執しているのだが。 『でも、中距離から一気に近付いて斬りつけるのは僕好みの戦法なんです。機動力は低いから今回みたいにガン逃げされると厳しいですけど。』 『移動スキルや広範囲攻撃スキルで補うのはどう?』 『それは考えたんですけどストラーフ型ってSP低いから移動に使うと攻撃の方が疎かになるですよ。』 『ならチーグルは止めてFL017リアパーツを入れたら? グリーヴァと一緒なら高威力なスキルも発動出来るでしょう。』 『スキルは魅力的ですけど、あれ、重いんですよ。単純なパワーもチーグルに劣りますから瞬発力も下がりますし。』 『成程。良く言えば一長一短、悪く言えばままならないってことね。』 『そう言う事です。それでも今の武装を使っているのはヴィジュアルがクモっぽいからですよ。』 『動き方はバッタなのに?』 『あれは、バッタみたいな動きをするクモです。』 頑なにクモだと言い張る黒野白太であったが、ふと、デスクトップの向こうからくすくすと笑うサクヤの声が聞こえてきた。 『どうしたんですか?』 『今更だけど、貴方って普通よね。』 『普通?』 『そう。あの武装がいいかな、この武装がいいかな、なんて悩むなんて、まるで普通の神姫マスターじゃない。』 『そう言えばサクヤさんの武装はずっとメイド服とナイフですよね。時々魔法使ってきますけど。』 『むしろここではそれが普通よ? あらかじめ一つか二つ置く武装を決めて、それを重点に究める。沢山の武装を買うよりも一つの武装を改造した方が安上がりで済むし。』 『そのくせ、ここの人等は欠点無いですからねー。接近戦も格闘戦も銃撃戦も制圧戦も空中戦も海中戦も全てこなす上で何者も勝てない長所を持っている。サクヤさんも含めて異常者揃いですよ。』 『はっきり言うわね。否定しないけど。でも私達から見たら貴方の方が異常なんだけどね。』 『そりゃまぁ貴方達にとって僕の異常が普通ですし。』 『そういう意味じゃないわ。異常な武装を使う私達に普通の武装の貴方は勝とうとしている。普通なら異常には勝てないって諦めるはずなのに。実力差が分からない程、貴方は馬鹿ではないでしょう?』 『いや、だって勝ち負けに普通とか異常とか関係無いじゃないですか。』 『関係有るわよ。だって貴方、私達に一度も勝った事ないじゃない。』 『関係有りませんよ。普通が異常に勝てないって誰が決めましたか? 普遍が特別に勝てないって誰が決めましたか? 勝つ方が勝つ、それだけです。』 『じゃあ貴方はまだ私達に勝つつもりなの?』 『当たり前です。んでもってその時は今まで見下しやがった貴方達を指指して全力で笑ってやります。』 『性格悪いわね。じゃあその時まで私達は貴方を笑っていてもいいのかしら?』 『どーぞどーぞ。僕は特に気にしませんし。』 あっけらかんと言う黒野白太であるが、サクヤは笑わなかった。 『やっぱり貴方は充分に異常だわ。…勝利なんて何の価値も無いだろうに、何でそんなものを求めるの?』 『僕は勝ちたいだけの武装紳士です。勝ちたいから勝つ、それ以外に意味はありませんよ。』 『イシュタルも同じ意見なの?』 サクヤに話を振られてそれまで黙っていたイシュタルが返事をする。 『私はマスターのようには考えてはいないな。勝利だけでなく敗北にもまた価値があると思っている。それに私達が君達に勝つ日は無いだろうとも思っている。』 『じゃあ何で刃毀れを止めないの? 勝利以外は無価値だって言う刃毀れにとってここでの戦いは無意味じゃないの?』 『私が神姫だからだ。マスターは私の勝利を信じている。それが例え幼子の夢のような無根拠のものであっても、それに答えるのが神姫というものだろう?』 武装する神姫、武装神姫、その在り方は、ただひたすら、勝利を望むマスターの為に勝利を。 イシュタルの答えにサクヤはハッとなったようだった。 『驚いたわ。貴方達にもちゃんとした絆があるね。勝利で結びついた絆が。』 『果たしてそれを絆と呼んでいいのかと疑うがな。私のマスターは格闘技はやってないし手先は器用ではないし頭も良くし友達も居ないからバトルの大体は私は任せだ。むしろ無能とも言っていい。』 『うっわ、ひど。事実だから別にいいけど。』 『それでも私は貴方達に絆があると見るわ。確かにそれは歪ではあるけれどね。』 『サクヤさんはどうなんですか? 貴方のマスターと会話した事ないんですけど。』 『私には御嬢様がいるけど、御嬢様はマスターではなくオーナーね。人間じゃ私への指示が間に合わない。』 『サクヤさんですらもですか。サクヤさんですらそうなら、ここの利用者は皆、そうなのかもしれませんね。』 『そういう意味でも貴方達は異常なのかもね。マスターと神姫が一緒になって戦う普通の武装神姫。…ちょっとだけ羨ましいわ。』 『でも僕は適当に武装させたり指示出してるだけですし、イシュタルは勝手に動いているだけなんですけどね―。そのせいで結局は勝てませんし。』 『でも刃毀れはイシュタルを信じているんでしょ。』 『…まぁ、マスターが神姫を信じてやらなくて誰が信じてやるんですか。べ、別に勘違いしないでよね! ホントはイシュタルの事なんて何とも思っていないんだから!』 『男のツンデレって気持ち悪いわね。』 『同感だな。』 『言わないでください。自分でも本当に面倒臭い性格だって自覚しているんですから。』 神姫二体から罵倒されパソコンのデスクトップに向かってがっくりと頭を垂れる(一応)神姫マスター、黒野白太。 『でもハッキリ言って、僕が貴方達に勝てる可能性は零ではないと思っているんですよ。』 『あら、どうして?』 『ハッキリとした根拠は無いんですけどね。最強の武装はあるのかもしれませんが、無敵の武装は無いと思っているんです。何事も一長一短と言う一般論ですね。』 『私にも短所はあると言うの?』 『ありますよ。サクヤさんのナイフの量は確かに脅威ですけど所詮はナイフです。剣や銃弾で直接的に弾いたりするのではなく、爆風などで間接的に吹き飛ばせばいいのではないのでしょうか。』 『…成程。まぁ、間違ってはいないわね。』 『付け加えれば貴方達にはマスターが居てイシュタルには僕が居る。これもまた大きな違いです。』 『バトルにおいて人間の指示を聞くよりも神姫が自分で考えて動く方が効率がいいわよ?』 『それはそうですけどね。でも状況に対する柔軟性は僕達の方が上だと思っています。イシュタルが思いもよらなかった戦術に僕が気付くかもしれません。その逆も然りです。』 『でも貴方、無能じゃない。』 『一寸の虫にも五寸の魂です。』 『うちのマスターは自分が凄いと思っている誇大妄想野郎だからな。』 『イシュタルって容赦無く刃毀れを罵倒するわよね。』 『こんな奴を尊敬しろと言う方が無理だろう。』 『そのくせ刃毀れの為にバトルする事に迷いは無いと。』 『残念ながら私は刃毀れの神姫だからな。私が人間だったら知り合いにすらなりたくなかった。』 『イシュタルのLove度は-255です、はい。』 『カンストしてるのね。マイナス方向に。』 等と、和気藹藹と(だがこの中に人間は黒野白田一人しかいない)雑談をし、途中、サクヤが胸元から金色の懐中時計を取り出し、時間を見た。 『もうこんな時間。そろそろおゆはんの支度をしなくちゃ。』 『あ、そう? じゃあばはあーい。』 『出来たらまた今度、料理のレシピを送ってくれ。サクヤの料理は本当に上手い物が出来るからな。』 『分かったわ。それじゃあね。』 パソコンのモニターの向こうから、サクヤの姿が消えた。 それを確認した黒野白太もまた表示されていたページを閉じデスクトップに表示されているアナログな時間表示を目にする。時刻は約六時四十三分、窓から差し込んできた黄色味を帯びた光が満腹神経が刺激され内臓が言葉には出さずとも空腹を訴えかける。 立ち上がった黒野白太に合わせてイシュタルは彼の右肩に飛び乗って座った、そこが彼女の指定席であるからだ。 「じゃあ僕達もそろそろ夕御飯にしようか。今日は何作るの?」 「親子丼とごぼうのサラダ。昨日、卵が安かったからな。」 「分かった、じゃあ僕は親子丼の方を作ろうかな、サラダの方は任せたよ。」 「前みたいに弱火で加熱してしまい卵を発泡スチロールの屑みたいにしてしまわないようにするなよ。」 「分かってるって、強火で一気に、だよね。」 トントントンと小刻みの良い音の後に、ジュウジュウとフライパンが働く悲鳴の音が部屋に響いた。 神姫がマスターを見下し、神姫が罵倒し、神姫が戦い、神姫が勝利し、神姫が料理を考え、神姫が調理をする。 武装だとか戦法だとか実力だとかは普通なのかもしれない、けれどこういう日常も充分に異常で、けれど悪い物ではないと黒野白太は考えていた
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第4話 新しい家族 比較的早い時間に夕食を取ったので、小腹が空いた俺は買い物へと出かけた。 最近、俺が買い物とかで出かけると、アールがついてきたがるようになった。 今日も、アールが一緒だ。 丁度、俺の半歩くらい前の目の高さぐらいを、歩く速度に合わせて飛んでいる。 「なぁ、何がそんなに楽しいんだ?」 「マスターと出かけるのが楽しいんですよぉ~」 「食い物買いに行くだけだぞ?」 「それでもいいんです」 「そんなもんかねぇ」 「そんなもんです」 そんなやり取りをしていると、アールが空中で停止した。 「マスター! あれ!」 「ん?」 アールの指差す方を見ると黒い物体が落ちている。 「おい! あれって」 はっきりとは見えなかったが、その物体が何か直感的に分かった。 そして、その答えが間違いであってほしいと思いながら走る。 その場所に到着したが、残念なことに間違いではなかった。 「マスター……」 アールが泣きそうな顔で俺とその物を交互に見ている。 そこに落ちていたものとは、両腕、右足首、左膝から下の無い黒い人形。 特徴である長い髪も右側が引きちぎられ、身体中傷だらけになっていた。 間違いなく、ストラーフという武装神姫だった。 「……ん……あ」 ストラーフが呻き声を出した。 バッテリーがまだあり、AIが動作している。つまり、この子はまだ生きている。 俺はストラーフをやさしく手に持ち、アールのほうを向いた。 「今、何時だ!」 「9時43分です」 アールが即答する。あと17分。 「間に合ってくれよ!」 俺はアールを買ったおもちゃ屋へ走り出した。 俺は走った。当初の目的地のコンビニを通過し、なおも全速力で。 「マスター! あと13分」 横を俺と同じ速さで飛ぶアールが叫ぶ。 大通りの交差点で運悪く信号につかまった。 「はぁはぁはぁ、間に合いそうだな」 ここまで休みなしに走ってきた俺は電柱にもたれかかった。 「マスター、大丈夫ですか?」 「ああ…平気平気…」 そうアールに言ったが、正直バテバテだ。 (日頃の運動不足がひびいてるよなぁ。) そんなことを思っていると信号が変わりまた走り出す。 そして、目的地のおもちゃ屋が見えてきたが、手前の踏み切りが鳴り出した。 「くそぉ!」 俺は速度を上げ、降りてくる遮断機を睨む。 到着したとき、遮断機が完全に降りてしまった。 遮断機を掴み、くぐろうと屈む。 「マスター!! だめぇぇ!!!」 アールの悲鳴に似た絶叫が響き、俺は手を離した。 「マスター、無茶しないで……お願い」 飛んできてそのまま抱きついたアール。俺の服に顔をうずめて見せないようにしていたが確かに泣いていた。 「わかったよ…」 遮断機が上がるまで俺はアールの頭を撫で続けた。 それからはアールを落ち着かせながら、歩いて向かっていった。 店に到着したのは、9時55分。間に合った。 俺はカウンターの方へ行き、ストラーフを置いた。 昔の町工場の頑固職人のような店主がそこに居た。 「こいつを助けてやってくれ」 店主はストラーフの姿を見て驚いた様子だ。 「いったい何をした」 「何って? 俺のじゃない、拾ったんだ」 「拾った?」 「ああ。とにかく、こいつのAIは生きてるんだ。なんとかしてくれ」 「ん~、そういってもなぁ」 店主はストラーフを調べるように見ている。 それから店主はしばらく考えて俺のほうを見た。 「まあ、やるだけのことはやってやる。連絡先をここに」 そういって書類を差し出す。俺は記入を済ませてもう一度たのむと頭を下げた。 俺は、帰り道でいろいろと考えていた。 「俺は正しいことをしたんだろうか……」 「……正しいですよ」 俺の独り言がきこえたのだろう。アールが俺の頭の後ろからやさしく抱きしめてきた。 「………やさしいですもん……そんなマスターが………大好きです……」 「ん? 何か言ったか?」 しっかりと聞こえていたが、何か恥ずかしくなってそう言ってみた。 「い、いえ! べつに何も」 アールは慌てて俺の頭から離れた。 数日後、連絡がありおもちゃ屋まで出かけた。 「ほれ、これだ」 そう言って店主が取り出したものは、神姫の収められたケース。 「これって?」 「知り合いに破損した神姫を直す達人が居て、みせみたがたんだが、あのボディ破損がひどくて修理は出来ないといわれた」 「じゃぁ……」 (助けられなかったのか) がっくりと肩を落とす。 「勘違いするな、AIから取り出した情報はこっちに移してある」 「え?」 「ボディは新品だが、記憶は受け継いでいる」 「そうか、よかった……」 ほっとして、緊張がとける。 「お前さんの真剣な顔をみて、幸せに出来るだろうと思ってな。お前さんのことを説明したら、何も言わずデータ移植をしてくれた、といわけさ」 「ありがとう」 俺は深々と頭を下げた。 「それで、これも持っていけ」 ストラーフの武装セットを神姫ケースの横に置く店主。 店主は素体分の料金でいいといったが、俺は武装を含めた正式料金を置いて店を出ようとしたら、店主が呼び止めた。 「忘れものだ、持って帰れ」 そういって何かを投げてよこした。 俺はそれを掴み、見てみると、壊れたあのストラーフだった。 帰り道で考えていた。 こいつがあの日、あそこに居た理由を。 一人で出歩いて事故にあった、どこからか盗まれて部品を取られた…… いくつもの仮説を立てたが、もう一人の俺が即座に否定する。 そして、もう一人の俺が囁きかけてくる。 (ひとつだけ納得のいく説があるだろう) 俺は、それだけは考えないようにしていた。しかし、何度考えても最後にはそこへたどり着く。 『愛すべき主人に捨てられた』 そうだとしたら、こいつが起動後最初に感じるのは、捨てられた時の思い出。 その時の記憶が甦り、どうなるのか分からない。そして、それを見たアールはどう思うのだろう。 俺の頭に、笑顔のアール、怒りながらも照れているアール、泣き笑いのアール… アールの顔が浮かんでは消えていった。しかもほとんどが笑っていた。 「……アール」 俺は、家で、アールの前でこいつの起動は出来ないと思い、近くの公園へと向かった。 公園のベンチに神姫ケースを開ける。そしてストラーフを取り出し、ベンチの上に寝かせる。 「さて、どうなるか」 しばらくすると、ストラーフがゆっくり目をあける。焦点の合っていないぼんやりした顔から序々に覚醒していく。 「いやぁぁぁ!! ごめんなさい! ごめんなさい! ゆるしてください!」 覚醒するとストラーフはうずくまり、絶叫した。 (やはり……) そう思った俺は、やさしくストラーフを手で包み、持ち上げた。 「ごめんなさい! ごめんなさい!」 それでも、ストラーフは叫び暴れる。 「大丈夫だ! もう心配ない!」 ストラーフの叫び声に負けないくらいの大声でストラーフに言い聞かせた。 「……あ」 俺の声が主人と違うと分かったのだろうか、ストラーフは落ち着いたようだ。 「さて、少し話を聞かせてくれるといいんだが、大丈夫か?」 ストラーフはコクンとうなずいた。 「言いにくいかもしれないが、自分がどうなったか覚えてるか?」 「あたいは……捨てられた」 「そうか……理由は?」 「バトルの成績が良くなくて、性能の悪いのはいらないって」 「そうか……」 しばらくストラーフの話を聞いて分かったことは、前の主人は神姫バトルを徹底して研究していたこと。 たとえ勝ったとしても、それが当然で言葉をかけてもらったことが無いこと。 そして、神姫を道具としか見ていないこと。 俺は、無性に腹が立ったがなんとか怒りを静めた。 「いいか、昔の辛いことは忘れろ。今からこの俺がお前の主人だ」 「え?」 ストラーフがびっくりしたようにこっちを見た。 「もうバトルとか、そういうことは考えなくていいってこと」 ストラーフにニッコリと笑う俺。 「家にも、バトルが嫌いでダンス好きなのが居るからさ。紹介するよ」 そういって、ストラーフを持ち上げ家へ向かった。 家に着くまでに、ストラーフには昔のことをアールに話さないでくれと頼んでおいた。 「おかえりなさい」 家に着くとアールが出迎える。 「ただいま。えっと、この子がアール。君のお姉さんだ」 「……お姉さん」 「そう、同じ店で買ったんだ。本当の意味での姉妹ではないが、姉妹といってもいいだろう」 ストラーフを降ろすと、アールが抱きついた。 「よろしくね。マスター、この子の名前はなんですか?」 「ああ、そういやそうだな。名前を教えてくれるか?」 「名前?」 ストラーフはアールと俺を交互に見る。 「前の主人はつけてなかったのか?」 どういう主人か知っていたが聞いてみた。たぶん名前などつけていないだろう。 「はい……」 ストラーフは俯いてしまった。 「マスター」 アールも心配そうに俺を見る。 「んじゃ、せっかくだし、アールの時のように自分でつけてもらおうか」 「そうですね」 二人してストラーフのほうを見る。 「えっと……その……あたいの名前は……」 ん?と身を乗り出すアールと俺。 「アール姉さんの妹だから……アールの対になる文字……エル、あたいの名前はエル」 「そうか、エルか」 「よろしく~エルちゃん」 こうして、俺の家族が一人増えた。 「はい、こう、ワン、トゥー、スリー」 「えっと、ととと、あっ」 机の上では、アールがエルにダンスのレッスン中だ。 エルが家に来て、しばらくたった。 家に来たてのころは沈んだ表情をしがちだったエルも、いまでは明るくなりアールと一緒に踊るようになった。 俺は、そんな光景を微笑ましく思いながら、なにげなしにTVのチャンネルを変えた。 その時は、俺もアールもエルもまだ気づいていない。運命のスイッチを押したことを。 なにげない普段のニュースがしばらく流れていたかと思うと話題が変わり、中継現場の映像に切り替わる。 『はい! 私は今、大人気の”武装神姫”そのバトル大会の会場に来ています』 どうやら、神姫の話題らしい。そういえば、大きな大会の予選だか何かがあったような気がする。 俺はそんなことを思いながら、ちらっとアールとエル二人の方をみた。二人とも背中をこちらに向けてダンス中だった。 二人にとって微妙な話題だから、嫌がる素振りをしたら変えるつもりだったがそのまま見続けた。 『さて、参加者にインタビューしてみましょう。こんにちわ! あなたの神姫、強そうですね』 『もちろんです。ありとあらゆる研究をしてパーツを組み込んだんですから』 レポーターに、どこから見ても金持ちのぼっちゃま風の男が答えた。 歳は俺より下っぽいなと、見ているとアールの悲鳴が響く。 「マスター! エルちゃんが!」 あわてて机に駆け寄ると、エルが膝立ちになり、両手で耳を塞ぐようにしてガクガク振るえていた。 「どうした?! エル!」 「あ……ああ……」 俺はエルを抱き上げて優しく撫でてやる。 「マスター…」 「大丈夫か?」 「マスター、ごめんなさい」 エルが俺の手の中で謝る。 TVには以前としてあの男と神姫の映像が映し出されている。 「マスター……」 アールが俺を見ている。アールには、エルが落ちてた理由を、俺からなるべくやわらかく伝えてあった。 アールはピンときたんだろう。俺も多分同じ結果を導き出して、エルを降ろす。 「エル……あいつがそうなのか?」 「はい、あたいの前のマスターです……」 そう答えたエルにアールが抱きついてやさしく撫でている。 実際に見て、エルから前の主人の話を聞いたときの感情がふつふつと湧きあがってきた。 「なぁ、エル。お前の力であいつ、ぶっ倒してみないか?」 「え? あたいが?」 「そうだ」 「でも、あたいじゃ…」 俺はエルの頭を撫でる。 「大丈夫。こっちは俺もアールも居る。三人でがんばろうぜ」 「うん! 私はバトルってあんまり好きじゃないけど、エルちゃんの為なら協力するから」 「マスター……姉さん…あたいがんばってみるよ」 「そうだ、その意気だ。あいつに、エルを捨てたこと後悔させてやろうぜ!」 「オー!」 アールが元気よく腕を上げて叫ぶ。 「ほら、エルちゃんも」 「オー」 アールに言われてエルも腕を上げて叫んだ。 「ただいま~。お~い買ってきたぞ~」 「おかえりなさいマスター」 「おかえり~マスター」 玄関まで出迎えた二人を抱き上げる。 「これがそう?」 エルが俺の足元に置かれた箱を見る。 「中古品だけどな」 ヴァーチャルバトルのインターフェイスを買いにいったのだが、新品は想像以上に高かったので型落ちの中古を買った。 「よし、それじゃあ早速使ってみるか。アールはサポートたのむ」 「はい」 自室に持ち込んでパソコンに接続した。 「よし。じゃあエルの武装するか」 「お願いします」 武装し終わるとエルの様子が変だ。 呼んでも返事しないし、動かない。 「エル?」 かるくつついてみると、やっと反応があった。 「よぉぉし! バトルだぜぇ!」 「え? エル?」 「おうよ! おもいっきりいくからたのむぜ!」 性格かわってるよなとか思いながらもインターフェイスに接続した。 それからが大変だった。 「突っ込みすぎた! 距離をとって!」 「マスター、右足負傷しました」 「直線でかわすと相手に読まれる」 「射撃は正確に、煙で相手を見失う!」 「右サブアーム可動不能になりました」 アールが現状を分析しながら俺が指示を出しているが、かなり苦戦していた。 ボロボロになりながらも、どうにか相手を倒して接続を切った。 「いやぁ、失敗失敗。ひさしぶりだから熱くなりすぎたぜ。はははっ」 ヴァーチャルバトルから戻ったエルはそう言いながらも、勝てたことに喜びを感じているようだ。 武装をはずすと、エルの性格が戻る。 「マスター、ごめんなさい。あたい、うまく戦えなかった……」 「いや、それはいいけどさ。性格かわってたよな」 「うまく言えないけど、武装をつけると、変なんだ」 「変?」 「うん、なんか戦うぞ~って感じになってああなるみたい」 「そっか、まぁなれればいいと思うよ」 「うん、あたいがんばるよ」 それから、猛特訓が始まった。俺の居ない昼間はアールとダンス練習、アールが操作するヴァーチャルバトル特訓。 ダンス練習は、アールがいままでも教えていて続けた方がいいといったからだ。 俺が帰ると、俺が指示を出してヴァーチャルバトルという生活を繰り返していた。 さらに幾日か過ぎた。 エルのヴァーチャルバトルもレベルもどんどん上がっていき、複数の敵とも対等に戦えるようになっていていた。 俺は、夜食を買いにコンビニへと向かっていた。アールも一緒だ。 エルは、昼間の特訓が激しくて、AIを休めるためにスリープモードに入っている。 「アールごめんな、しばらくかまってやれなくて」 「ううん、いいんです。私もエルちゃんにダンス教えるの楽しいですし」 歩きながらそんな話をしていたが、アールの顔はやはり寂しげだった。 「アール」 俺は立ち止まり、アールのほうを向く。 「はい?」 アールもこっちを向く。 「こんなことで埋め合わせっていうのも、何なんだけどさ……」 俺はアールをやさしく掴む。 「じっとしてて」 「はい……」 アールのヘッドギアを外すと、アールと初めてのキスをした。 そして、二人して顔を赤らめて、買い物をして家へ帰っていった 戻る 次へ
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前へ 先頭ページへ 朝。 朝が来た。 マスター風に言うならば清々しい朝。もしくは、爽やかな朝。 とにかく、私は内蔵された自動起動機能によって目を覚ました。 起きたからにはやる事がある。 ベッドであるクレイドルから上体を起こしての状況確認。 玄関―――朝刊が届いているのを確認、鍵もチェーンもかかったまま。異常無し 窓―――カーテンの隙間から天気を確認。予報通り快晴。鍵も閉まっている。異常無し。 ちゃぶ台―――マスターの財布を確認。休止前との異常は検出されず。異常無し。 ベッド―――マスターが眠っている、今のところ異常無し。 時刻―――現時刻、午前7時30分。講義開始が午前9時30分。マスターの行動予想。このまま起こさない場合の起床時間、9時。 行動、開始。 私はぴょいん、とクレイドルから飛び降りる。クレイドルはマスターのベッドの枕元に置いてあり、飛び降りた先はマスターの顔の直ぐそばだ。 何時もは気難しげな表情をしているが、この時だけはいつも穏やかだ。まるで死んでるみたい。 ……心なしかマスターに睨まれた気がする。次は潰されそうだから本来の仕事に移るとしよう。 ベッドの隅に立てかけられた30cmの鋼尺、それを両手で抱えるように持つ。 人間からしたらそれ程でもない重量だろうが、神姫である私からしたら結構な重量を感じるそれを、肩に担ぐように構える。 そして、腰を軸に上体を回転させる。 「―――ッ!」 ばこん、という音と共にマスターが飛び起きた。 頭を押さえて涙目でこちらを見ている。 その視線を受けながら、私はこう言うのだ。 「おはようございます、マスター。今日も良い天気ですよ」 それが私の日課。 武装神姫、ナルの一日の始まりなのだ。 今日も今日とて大学へ向かうマスター。 そしてマスターの胸ポケットの中に納まる私。 マスターが一歩歩くごとに身体が数cm程上下する。 これが人間換算だった場合、人は酷く酔ってしまうと聞いた事がある。 全てを人間に準じて作られた私がそうならないのは機械的に制御が成されているからか、それとも個体差なのだろうか。 そんな事を考えていると、空が翳った。 「……ハトか。珍しい」 マスターが呟いた。 人には聞こえそうもない小さな呟き。しかし、私の耳はそれを捉えた。 それは私の聴覚が人間よりも優れているという点もあるが、マスターの身体から声の震動が伝わったというのもある。 「このご時世、こんなところで鳩を見れるとは思いませんでした」 私は率直な感想を言った。 私に内蔵されている基本データの鳩に関する項には2036年現在、鳩の生息数が激減しており、絶滅危惧種一歩手前であると記されている。 そして、日本で野生の鳩が生息しているのは浅草だけだとも記されている。 ここは浅草から少し距離がある。飼われた鳩にしろ野生にしろ、少々貴重な体験だと言えた。 「餓鬼の頃はそこそこ見かけたんだがなぁ」 そう言うと、マスターは空を仰いだ。 その表情を窺い知ることは出来ないが、きっと私の知らない遠くを見ているのだろう。 私がマスターと出会ってもう5年になる。 この5年間、色々な事があった。 だけど、まだ私はマスターの全てを知っている訳ではない。 マスターが見たもの、マスターが感じたもの、マスターが知ったもの。 私が知らない、マスターの要素。 マスターという人間を構成するピース。 それを、私も共有する事が出来るのだろうか。 「……暇があったら実家にハト探しに行くか」 さっきよりも小さな声、だけど、はっきりとした声でマスターが言った。 その視線は真っ直ぐ前を向いている。 だけど、私にはその先にあるものがわかる気がした。 「楽しみです」 大学は、目と鼻の先だった。 今日の講義は一限から五眼までフルに入っている。 一限目は工業数学。マスターが最も苦手とする教科で、マスターは今にも死にそうな顔をしている。 私はというと、教室の机の上にぺたりと座り、周囲を伺っている。 この教室はそれほど広くは無く、人と人が接触しやすい。周囲を見れば3,4人のグループで固まってるのが殆どで、一人で難しそうな顔をしているマスターは少し浮いている。 元々人づき合いが良い方では無いので、大学内の友人は研究室の方くらいしか見た事が無い。 他愛無い雑談のざわめきの中、マスターは一人教科書を睨んでいる。 少しでも頭に入れておかないと刺されたときマズイそうだ。 暫くして、教授が現れた。その瞬間に水を打った様に静まり返る様は何時見ても面白い。 講義が始まった。 教授は説明を交えながら黒板にチョークを滑らせている。生徒はと言えば、黒板の例題や問題を写し、それを解く為に頭を絞っている。 無論、マスターもその一人だ。 シャーペンをくるくる回しながら、左手で頬杖をしている。その眼はノートに突き刺さっており、とても鋭く、険しい。 暫く微動だにしなかったマスターだが、目だけが動いた。 その先にいるのは、私だ。マスターの言わんとする事は手に取るように分かる。 確かに私は機械の類だ。計算は得意中の得意。朝飯前だ。 しかし、だ。 「マスター、こういうのは自力でやらねば意味がありませんよ?」 マスターは苦虫を噛み潰した様な表情をし、再びノートを睨んだ。 何事も経験ですよ、マスター。 講義を終えたマスターは随分と憔悴している様に見える。 覇気が無いというか、精気が無いというか。とにかく元気がない。 マスターの胸ポケットの中で揺られながら私はそう思った。 しかし、それも仕方ないのかもしれない。 その理由は次の講義がマスターの苦手科目No.2、文章演習だからだろう。 この講義、平たく言えば作文の講義なのだが、マスターは文字を書くとか本を読むとかそういう類の事が大の苦手なのだ。 レポートにおいてもそれは健在で、毎回必ず再提出の烙印を押されている。 そういう訳でマスターはこの講義が苦手という訳だ。 重々しい足取りで教室移動をするマスターは、さながら亡者だ。 瞬間、身体に衝撃が走った。突然の事だが、頭は冷静に動いている。 とりあえず、私の身体は空中にある。身体は一回転していて、頭から真っ逆様に落ちる格好だ。 とりあえず状況を確認すると、マスターが尻餅をついていて、その上に人が覆いかぶさっている。 マスターは後頭部を押さえていて、覆いかぶさってる人間はぐったりとしているのが上下逆さまに見える。 「…わわっ、大丈夫ですか~!」 何ともマヌケな声が聞こえてきた。 その声の主はマスターに覆いかぶっている人間だ。 「いいから、どいてくれ」 マスターが不機嫌そうに言った。それを聞いたその人はあたふたしながらやたら危なっかしくマスターの上からどいた。 それは女の人だった。 そして、床と私の距離はもう無い。ぶつかる。 何時もなら直ぐに体制を立て直す事が出来るのに、反応が遅れた。どうしよう、とか思ってたら、 「……ゎっ」 思わず変な声が出た。それは身体に慣性の力が働いた事による反作用だ。 視界は未だ上下逆転したままだ。前髪が床についている 足首を見ると、誰かに掴まれている。 白い手、白い腕、白い身体、白い髪。 「……ストラーフ?」 思わず疑問が口に出た。だって、そこにいたのは白い神姫。 白い神姫と言えばアーンヴァルな訳だけど、その顔はどう見たって私と同じ顔。ストラーフなのだから。 しかし、このストラーフ無表情である。目が合っているのにあちらさんは瞬き一つしないで私をじっと見ているのだ。 なんて事考えていたら、彼女は唐突に私の足首から手を放した。 手を付いて一瞬逆立ちの体勢、今度は身体全体を使ってくるっと周る。よし、上下正常な世界だ。 私は改めてストラーフを見た。私は量産機なので私と同じ顔を見るのは少なくない。その中には様々なカラーバリエーションのストラーフがいたが、ここまでまっ白いストラーフは初めて見た。 「わ、私ぼー、としてて、その、あの……」 頭上からマヌケな声が降ってくる。その声の主はマスターに対し平謝りだ。 「……今度から気を付けてくれ」 マスターはバツが悪そうに言うと、私を拾い上げた。 「大丈夫か?」 「あのストラーフのお陰で」 私はマスターの手の中、視線をあのストラーフへと向けた。 そのストラーフはマヌケな女の人に抱きかかえられている。 マスターの逡巡する気配が漂った。 「……名前を聞いても良いかな?」 その視線はマヌケな女に人に向けられている。 当の本人は、一瞬ポカーンとした後、金魚みたいに口をパクパクさせている。 かと思えば大きく深呼吸をし始めた。3度深呼吸をした彼女はようやく口を開いた。 「えと、その、わた……私、環境心理学科の、君島、です」 まるで息も絶え絶え、死にそうな様子で君島さんとやらは言った。 「それで、この子は、アリスって、言います」 そういって胸に抱える白いストラーフ、アリスを一瞥した。 しかし、このアリスとやら、マスターである君島さんと違い本当に無表情だ。 「僕は倉内 恵太郎。君島さんと同じ環境心理科です」 マスター自慢の猫被りが発動した。さっきまでの不機嫌ぷりは何処へやら、今は完璧な爽やか系好青年だ。 「この子はナル」 「どうも」 私は軽く会釈した。 「アリスちゃん、僕のナルを助けてくれてありがとう」 マスターの言葉を無表情で受け止めるアリス。それに対して君島さんはやたらおどおどしている。ここまで来ると面白い。 「……いい」 アリスがようやく口を開いた。にしても驚くほど無機質な反応だ。……CSC入ってないんじゃないだろうか。 その時である、場違いな声が響いたのは。 「おはよう! けーくん!」 どっから顕れたのか、孝也さんがマスター目掛けて飛び付いてきた。 「おはよう……っと!」 そしてマスターは孝也さんの顔面に右フックを叩き込んだ。 孝也さんは派手な音と「ぐべぇ」みたいな呻き声を上げてゴミ箱に突っ込んじゃった。 「ふぇ?…え? え?」 案の定、君島さんが目を白黒させている。 「ああ、いつもの事ですよ」 マスターは相も変わらず爽やかを装っている。 「そう、僕とけーくんのスキンシップは何時でも過激なんだ……」 何時の間にやら孝也さんがマスターの傍らに寄り添っている。相変わらず復活が早い。 「そ、そう、なんですか」 駄目だ、完全に怯えている。 「マスター」 「……じゃあ、次の講義がありますんで僕はこれで」 私の言わんとする事が伝わったようだ。 マスターは孝也さんの首を鷲掴むと、笑顔で歩き始めた。 「ところでけーくん、今の人は? ……けーくん、首が痛いよ~。……けーくん、絞まってる! 何か凄い締まってるよ!? 何! 僕が何かした!? 嫌だ! 離して! 話せば解る!……アーーーッ!」 残された君島は暫し茫然としていた。 まるで嵐のような出来事に頭の処理が着いて行っていないのだ。 「……ましろ」 「ふゃいっ!?」 普段は全くの無口&無表情なアリスが君島を、君島ましろの名を呼んだ。 その事に君島は飛び上るほど驚いた。自分の神姫なのに。 「……紅」 一言。言葉ではなく単語。 アリスのその短い説明でも、君島はすぐに理解出来た。 「あ、あの人が、そう、なの?」 口調は変わらない。しかし、その目の鋭さは先ほどまでの少女とは到底思えない鋭さだ。 その鋭い視線を恵太郎が去って行った方向へと投げかける。 見えない何かを見るように、見えない何かを値踏みするように。 「じ、じゃあ、やっつけなきゃ、あの人」 まるで近くのコンビニに買い物に行くような気軽さ。 反して、命を賭けた血戦に赴くような切迫さ。 奇妙で歪んだその少女の名は君島ましろ。 ましろを知る人間は彼女をこう呼ぶ。 白の女王、と。 先頭ページへ 次へ
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「……なんか、改めて向き合うと緊張するもんだな」 「そうですわね」 家に着き、俺とヒルダは自室で向かい合っていた。何故か正座で。 ヒルダは居間に置かれている座卓の上に座りながらこちらを見上げていた。 バイザー越しなので視線は感じ取れないが……ちょっとおびえているようにも見える。……無理もないか。自身の中の別人格を意識的に呼ぼうとしているんだから。 しかしまあ、あれだ。こうやってにらめっこを続けていても埒が明かない。 「……ヒルダ、頼む」 「はい、ですわ」 ヒルダがルナピエナガレットに手をかけ、ゆっくりと外す。 こちらを見据えた蒼い目は瞬きをした瞬間に紫水晶へとその色を変えた。 「……あら。ワタクシを貴方自ら呼びだすなんて、めずらしいですわね」 あきらかに居丈高な口調。そして高圧的な態度。 間違いなく、「裏」のヒルダだ。 「さて、一体何の用ですの? ワタクシを呼び出したのですから、理由があっての事ですわよね? 筐体のなかでないのならリアルファイトですの?」 「別に戦うために呼び出したわけじゃないさ。茶飲み話ぐらい付き合ってくれ。お前は俺のパートナーなんだからな」 ヒルダの物怖じしない態度にこちらも緊張が和らいだ。 正座が馬鹿らしくなり、崩しながら答える。 彼女は一瞬ぽかんとした。 「どういう風の吹きまわしですの?」 「……と言うと」 「戦いもないのにワタクシを呼び出すなんて、貴方らしくありませんわ」 「俺らしくないって……」 そもそも俺が望んでこいつにバトルに出てもらったことは一度もないのだが。まあそれはいい。 「俺がお前の存在を認知してからまあ半月ぐらいたつわけだが、表のヒルダと会話をしたことはあっても、お前とは滅多に、いや、全く話す機会なんてなかったからな。バトル中のお前は俺の話を聞かないし」 「ワタクシを扱うに足らぬマスターの言うことなど聞く耳持ちませんわ」 お前はあれか。高レベルか。ジムバッジが足らんのか。八つ目を手に入れないと言うことを聞いてくれないのか。 「それに。茶飲み話と言っておきながらお茶がないのはいかがなものですの?」 「……それもそうだな。淹れるか」 「ワタクシは紅茶がいいですわ」 「そんなハイカラなもん家にはねーよ」 緑茶で我慢しろ。 ◆◇◆ 「意外と美味しいですわね。粗茶ですけど」 「やかましいわ」 スーパーで買った一山いくらの茶葉でもうまく淹れればそこそこうまいものである。 一人暮らしを始めて約半年、慣れれば美味い茶を淹れることなど造作もない。 ヒルダは彼女用にと購入したプラスチックの湯呑を使って茶を啜る。 「……そう言えば神姫は飲み食いできるって愛に聞いてなんの疑いも持ってなかったが、いざ目の当たりにしてみると不思議だよな」 「一応、飲むことはできますわ。濾過されて冷却系に回されますの。固形物も摂取は可能ですが、色々と面倒なのであまりワタクシは好きではありませんわ」 「面倒、とは」 「分解に莫大なエネルギーが必要ですの。エネルギーを得るための行動にそれ以上のエネルギーをかけるのは不毛でしょう?」 それは道理。もともとは人とのコミュニケーション用として考案された機能らしいからな。実用性は皆無だろう。 「食事が趣味って神姫の話を聞いたことがあるが」 「味を感じることはできますもの。ワタクシ達のAIは人間に近い思考をとりますから、美味しいモノを食べて嬉しいと感じるのは当然ですわ」 「そりゃそうだな」 「……さて、ごちそうさまですわ。戦いがないならワタクシはこれで」 「おいおいおいちょっと待てコラ」 バイザーをはめてさっさと交代しようとするヒルダに俺は待ったをかける。 「何ですの?」 「茶を飲んだだけでもう変わる気かお前」 「……お代でも取る気ですの?」 「誰がそんなもん取るか」 うちに勝手に来て菓子漁って帰るどっかの馬鹿はそろそろ警察に突き出してもいいとは思うが。いやそうじゃなくて。 「お茶を頂いた。話をした。茶飲み話という条件はこれでクリアしていますわ」 「お前についての話をしようと思ってるのにお前がいなくなってどうするんだよ」 「ワタクシの話ですの? 茶飲み話と言ったのはそちらでしょう?」 「言葉の綾だ。本当に茶だけ飲んでどうする」 「ではさっさと本題に移りなさいな。ワタクシ、回りくどいのは嫌いですわ」 本題……ねえ。 俺はため息をつく。 いろいろ聞きたいことはあるが……とりあえず。 「お前はもう一人のヒルダの事を認識してるか?」 「もちろんですわ。彼女が表に出ているとき、私も意識はありますもの」 「……はっきりと意識があるのか?」 「いいえ。夢うつつといった感じですが」 これは表のヒルダと一緒か。まあこの程度は予測範囲内だな。 「初めて起動した日がいつかわかるか?」 「二〇三七年十一月十三日ですわ」 正解。つまり、表のヒルダが自我を持った瞬間、こいつも生まれたってことだ。……こりゃ単なるバグなんかじゃなさそうだな。 「初めて戦った相手は?」 「……さっきから何を言ってますの? 愛の持つアルトレーネに決まっているでしょう?」 そう。愛にそそのかされてイーダ・ストラダーレ型を購入し、その場で起動させられてすぐにバトルにもつれ込んだのだ。 バトル終盤、リーヴェの放ったゲイルスケイグルがヒルダの顔をかすめてバイザーが破損。そしてこいつは覚醒し、暴走した。 あの時の愛の唖然とした顔は写真に収めて送りつけてやりたいほど貴重なものだったが、あいにくその筐体の向かい側で俺も同じ顔をしていたに違いない。 そしてその時のリーヴェとヒルダの痴態の録画映像が、アングラで高値で取引されているとかいう噂を聞いたことがある。信じたくもない。 ……次の質問はこれにするか。 「何でお前は戦う神姫全員にセクハラしやがるんだ。今日で被害数が二十を突破したぞ」 「敗者は勝者にとっての供物でしかありませんわ。それをワタクシがどうしようとワタクシの勝手でしょう?」 「相手の感情は無視かよ。それじゃ立派な強姦だろうが」 「敗者は地べたをはいずり回って泣くのがお似合いですわ」 「それはお前個人の考えだもんでとくに言及はしないが、地べたに押し倒して鳴かせるのはいかがなもんかと」 「あら、うまいこと言いますわね」 「褒められても全く嬉しくねーよ」 そしてうまいこと言ったつもりでもねーよ。 「というかあれだ。何でセクハラばっかりしやがる」 「趣味ですわ」 「趣味て」 「他に大した趣味もありませんので」 「なんでだよ。探せばいくらでも見つかるだろうが」 「バトル以外で表に出ているのは『彼女』ですし」 「……それはそうだが」 確かに、今日初めてバトル以外で俺はこいつを呼び出した(呼び出したこと自体が今日初めてだが)。そういう意味では、俺はこいつをヒルダという檻の中に閉じ込めていたともいえる。 「……まあ、確かに。それは悪かった」 「別にかまいませんわ。ワタクシとしては、勝つことさえできればよいのですから」 「正直なところ、それはどうかと思うが」 「何故ですの? 武装神姫は戦うために生まれた存在。戦うことに意義を見出し、勝つことで価値が生まれるものですわ」 「戦うことは確かにお前たちの根幹をなすものだろうが、武装神姫は元々人間のパートナーとして生み出されたもんだろう。それについてはどうなんだ」 「そんなもの、ワタクシの知ったことではありませんわ」 「おいおい……」 つまり俺とコミュニケーションを取るつもりが皆無である、ということか。厄介な。 「なんでそんな俺を毛嫌いしくさる。神姫はマスターに対して絶対とはいわんが従うものなんじゃないのか」 「先ほどから申し上げています通り、ワタクシは貴方をマスターとして認識しておりませんので」 認められてねーってか、くそったれ。 まあ確かに、イーダ型の基本的な性格は高飛車なものだし、むしろヒルダの性格が本来のイーダ型のそれとずれていると言ってもいいから、元々こんなもんなのか? ……神姫オーナーとしての経験値が少ないせいか、よくわからん。 「じゃあどうすればお前は俺の言うことを聞くんだよ」 「未来永劫、ありえませんわ」 「歩み寄りの精神ぐらいみせろよ!」 「貴方がワタクシに適応なさいな」 くっそ、プリインストールされた性格とは言え、腹が立つな。 「では、お話はすみましたね? ではこれで。次は戦いの場でお会いしましょう」 「あ。てめ! こら!」 あわてて掴みかかったが、時すでに遅し。俺の右手のひらの中ではバイザーをつけたヒルダがびくりと肩を震わせて俺を見上げていた。 「マ……マス、ター?」 「……すまん、逃げられた」 ため息をつき、ヒルダを離してやる。ヒルダは俺の剣幕に心底おびえていたようだが、呼吸を整える。 「……くそったれ」 「……結局、どうでした? あの……『彼女』は」 「全く話を聞かなかったよ。なんとかしてあいつの手綱を握る方法を考えなきゃな」 茶をもう一杯淹れながら俺は呟く。ヒルダのにも淹れてやると、彼女がおそるおそる喋り出した。 「あの……マスター。差し出がましいようですが、提案があります」 「……提案?」 「はい。彼女に言うことを聞かせられるかもしれない方法です。かなり荒療治だとは思うのですが……」 バイザー越しに見上げてくる彼女の視線は、どこか決意めいたものを感じた。 俺はぐっ、と湯呑をあおると、彼女に言葉の続きを促した。 ◆◇◆ 「はああああああああっ!」 「くふっ、くふふふっ」 翌日、俺たちはゲームセンターへと足を運んでいた。 今回の対戦相手はリーヴェ。こちらから挑戦した形になる。 開始三分ですでにバイザーは壊れ、裏のヒルダが表出してリーヴェに襲いかかっていた。 ……まあ、今回は想定の範囲内なんだが。 一応、こちらから指示を出しているものの、ヒルダは全く従う気配がない。それでもその一挙手一投足は着実にリーヴェを追い詰めていく。 「く……流石ヒルダちゃん、間近で見れば見るほど感じるすさまじいまでの戦闘センスですよー!」 「御褒めにあずかり光栄ですわ。再び貴女を這いつくばらせて差し上げます!」 下から打ち上げられるエアロチャクラムを副腕に搭載したシールドで打ち払い、リーヴェは距離を置く。させじと突出するヒルダ。 しかしヒルダが自らの間合いにリーヴェを捉える前に、リーヴェはすでにシールドと大剣ジークリンデの柄の結合を終えていた。 シールドが展開。内部からエネルギーの刃があふれ出すと同時に、リーヴェはそれを投擲する――! 「――【ゲイルスケイグル】!」 副腕から豪速で放たれた槍は一直線にヒルダへと向かった。極至近距離で放たれたそれをヒルダは避けきるすべがない。 「!!」 「――くふふっ」 しかしそれをヒルダは素体にあたらないレベルの挙動で避けた。左のエアロチャクラムが接続パーツごと千切れ飛んだが、ヒルダの突進自体は止まらない。 ヒルダは右手首の袖を展開。リーヴェにアイアンクローを叩きこんだ。 途端にリーヴェの膝から力が抜け、地についてしまう。 「し、しま―っ」 「くふふふふっ。それでは頂きますわ――?」 ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! ――Surrender B side. Winner Liebe. いつものように鳴り響いたサレンダー。 しかし、それによってジャッジシステムが告げた勝者の名はヒルダではなく。 「――え――」 ヒルダの身体が一瞬にして0と1へと分解され、空へと還っていく。 リーヴェはそれを見送り、呟いた。 「幸人ちゃん、ヒルダちゃんは手ごわいのですよー。頑張ってくださいねー」 ◆◇◆ 「……これでよかったわけ? 本当に」 向こう側の筐体でリーヴェを回収しながら愛は言った。 「大丈夫だろう。ヴァーチャル空間で裏ヒルダが現れても、ゲームが終わればその意識は自動的に封じられる。あとは根競べだ」 俺はヒルダを胸ポケットに入れて答える。 「ヒルダ、もう一人のお前の事何かわかるか?」 「……多分ですけど、すごい怒ってます」 だろうな。だけどこっちもそれが目的だし。 勝つことを至上とし、固執する裏ヒルダに手綱をつけるには、そのプライドを叩きつぶすほかない。 そのための方法としてヒルダが提案したのは、裏ヒルダが暴走しそうになった瞬間、俺がサレンダースイッチを押すことだった。 ……行き過ぎて暴走しないよう、調整は要るだろうが。 ヒルダの勝率も落ちるし、俺自身にはデメリットしかないが他に方法も思いつかない。行き当たりばったりの作戦であることはわかっているが……。 あれだ。裏ヒルダの手綱を握るための先行投資だと思おう。普通に勝つなら勝たせてやればいいんだし。 「さて、これが吉とでるか、凶とでるか……」 俺はため息をついて、再び筐体の前に座った。 幸い、対戦相手に関しては断った面子にこちらからメールを送ることで事欠かない。 もちろんこちらの作戦に関しては伝えて了承を取ってある。 あとは裏ヒルダが折れてくれるのを待つだけだ。 俺はそう思いながらヒルダをエントリーポッドへと送りこんだ。 進む 戻る トップへ
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交差点の向こうに走り去る少年の背中を見て、男は静かに呟いた。 「……行っちまったか。峡次のヤツ」 腫れ上がった頬をさすりながら、ゆっくりと立ち上がる。全力で山ほど殴られた所為か、まだ頭にはわずかに揺れる感覚が残っていた。 「何とかなる……と思いたいですけれど。あの子も一緒ですし」 引き抜いた刃を白鞘に納めつつ、サイフォスタイプの少女は肩をすくめてみせる。 峡次がオーナーに向かって駆け出したとき、彼女は彼からしっかりと飛び離れていた。その代わり、鳥小に投げられて倒れ込んだ彼の元には、一番最初に駆け寄っていた。 「そうでないと、困るけどな」 辺りを見回しても姿が見えないから、今もきっと一緒にいるはずだ。 たぶん。 少々反応の鈍い娘だから、途中でふり落とされてなければいいけれど……と、少女は心の中で祈りを捧げた。 「……オーナー」 「俺もちょっとはしゃぎすぎたよ。悪かっ……」 オーナーと呼ばれた男は、自らの巨躯を腕一本であっさりと投げ飛ばした少女に笑いかけ。 「たね、じゃねえっ!」 その笑顔を貼り付けたまま、肩から来た衝撃に横殴りに吹き飛ばされた。 再び二転、三転して、容赦なくアスファルトに沈むオーナーの巨体。 「店の前でケンカするのが店長の仕事かっ!」 その前にそびえるのは、鉄塊を削りだしたかのような大剣を右手で突き、緑の髪を右側で結んだ、ツガルタイプだ。 その剣の如き視線。炎の如き怒り。十五センチの小さな体は、今は十五メートルに匹敵する威と圧を併せ持つ。 「ア、アキさん……」 鳥小はおろか、身長二メートル近いオーナーでさえ、彼女の前には言葉を失ったまま。 「なにやってんだお前ら! そこ座れ! そこ!」 「は、はいっ!」 鳥小、オーナー、サイフォスの娘。 それに加えて、騒動の成り行きを見守っていた客の少女とその神姫もがアスファルトに正座する。 「ウチが何の店か、忘れちゃいねえよなぁ? 鳥小」 「……ドールショップです」 背中にかかる『真直堂』の看板には、控えめだがしっかりと「ドール取り扱い」と記されていた。 「それから!」 「……神姫の仕事斡旋所です」 大きな体を縮こまらせて呟く、オーナー。 看板の上にある窓からは、二十を超える神姫達がひしめき合うように顔を出していた。 二階の縫製所で働いている、アルバイトの神姫たちだ。 「ウチで預かってるお嬢様がたが、変なこと覚えちまったらどう責任取るつもりだ? あぁ!?」 一番悪影響を与える存在は、目をつり上げているツガルだろう……とその場にいる誰もが思ったが。 それを口に出せるものは、誰一人としていなかった。 マイナスから始める初めての武装神姫 その7 後編 涙でにじんだ角を曲がり。 裏路地の段ボールを跳び越えて。 息を切らせた苦しさは、大通りの直線を加速して紛らわす。 人ごみで肩がぶつかって、後ろから罵声が聞こえてきたけど……吐き出す息の音で、無理やりにかき消した。 肺が痛い。 腕が痛い。 足が痛い。 喉が痛い。 目が痛い。 頬が痛い。 背中が痛い。 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。 その痛みで、もっと痛いところの痛みと混乱を強引に上書きして。 俺は秋葉原の街を全力で駆けていく。 「…う……ぁ……」 また誰かにぶつかったのか、女の人の声。 ごめん、と心の中で謝って、俺は速度を緩めない。 「…じ、さぁ……ん」 また? 酸欠気味で頭がクラクラしてるから、体の感覚も怪しげだ。けど、それでも肩や腕にぶつかった感触くらいは残るはず。 そういえば、さっきの声がしたときもぶつかった感じはしなかった。 「きょ……さぁ……」 ……あれ? 罵声じゃない。 俺の名前を呼ぶ声だ。 「峡次……さぁん……」 ……まさかと思いながら歩を緩めてみる。 背中に伝わってくるのは、俺のシャツの裾から伝わる妙な重み。 手を伸ばせば、小さな体がぶら下がってる。 「……ノリ!?」 ちょっと待て! 俺は慌ててノリの体をすくい上げ、人の来ない歩道の隅へ移動する。 「や、やっと……気が付いてくれたぁ……」 俺の手の中にへたり込んで、息を切らせてる小さな体。 「ご、ごめん。大丈夫!?」 こいつ、全力で走る俺の裾にずっと掴まってたのか。 「は、はぁ……何とか」 バイザーを閉じたまま、ノリは力ない笑顔でそう答えてくれた。 ……バカ。俺のバカ! 広いお寺の境内で……お寺っていう建物を初めて見るので、ホントは広いのか狭いのかは良く分かりませんでしたが……峡次さんはベンチに腰を下ろして、膝の上にわたしを乗せてくれました。 肩の上だと横顔しか見えなかったけど、ここからだと峡次さんの顔がちゃんと見渡せます。 「ほい、ノリ」 元気のない様子の峡次さんが差し出してくれたそれは、さっき入口の売店で買っていた白いクリームの塊でした。そっと口を近付けてみたら、クリームの感触よりも先に、冷たい空気が唇に触れて。 「冷たぁい」 触れたクリームは、その空気よりも冷たいのに、今まで触った何よりも柔らかくて。 舌を出してみたら、そのまま舌先ですくえちゃいました。 「美味しい?」 甘くて、冷たくて。 「はいっ! とっても!」 確か、売店の看板には『ソフトクリーム』って書いてあったっけ。 「そっか」 峡次さんはわたしの口元に付いたクリームを指先で拭って、少しだけ笑顔。そのまま口を大きく開けて、クリームの山の半分をまとめて削り取りました。 あ……。 ソフトクリーム、もっと食べてみたかったけど……峡次さんのぶんを分けてもらったんだから、もう我慢です。峡次さんはわたしの何十倍も大きいから、何十倍も食べないと同じ『おいしい』にならないんですから。 「………?」 けど峡次さんは、そんなに美味しそうじゃないみたい。ソフトクリーム、嫌いなのかな? 「ごめんな。変なところ、見せちゃって」 それが、さっき店長さんと戦ってたことだって思いつくまで、少し時間がかかりました。 「いえ……。あの店長さんは?」 少なくとも、わたしの『一般常識』のライブラリには、初対面の人と殴り合うあいさつの仕方は載ってません。地方の風習まではフォローしてないから、峡次さんはそういう習慣のある所で生まれたのかもしれませんけど。 「……兄貴」 えーっと、兄貴=お兄さん。同じ親から生まれた年上の男……って。 「そ、そうなんですか?」 お兄さんとは、殴り合うのがあいさつの仕方なんでしょうか? わたしには姉妹はいないから、良く分かりません。 でも、ベルさんやプシュケさんとは殴り合わなかったです。それとも、さっきの戦闘は神姫バトルに相当するコミュニケーション行為なんでしょうか……? 途中で鳥小さんも参戦してましたし。 「ああ」 ソフトクリームの下の、茶色いところをパリパリと食べながら、峡次さん。 あ、あの……そのパリパリも、食べて……。でも、峡次さんのだから、ダメだよね……うん。我慢、我慢。 「結構、凄い人だったんだぜ? 大学の研究室で、CSCの開発に関わったとか、神姫の素体の研究をしてたとか……」 CSCはわたしの胸に入ってる『心』の部品。 素体は、この体のこと。 っていうことは、峡次さんのお兄さんは……。 「じゃあ、わたし達の生みの親……?」 「……どこまでがホントかは知らないけどな」 峡次さんは楽しく無さそうな笑い顔を浮かべると、手の中に残った三角の紙をくしゃりと丸めて、隣のゴミ箱へ。 さようなら、ソフトクリームさん。おいしい思い出をありがとう。また、会えます……よね? 「ただ、神姫や武器作りの腕は本物だった。兄貴のハウリン……クウガは、俺が知ってる中じゃ最強の神姫だったしな」 クウガさんっていうのが、お兄さんのハウリンタイプの名前みたい。 第二期モデルの犬型神姫・ハウリン。砲戦特化のわたしとは対照的なコンセプトを持つ、オールラウンダータイプの汎用神姫。 特化した能力はないけど、銃や砲撃だけじゃなくて、剣も格闘も何でもこなせるスゴい子です。 「なら、何でそんな人にキックを……?」 峡次さんは、そんなお兄さんのことが大好きなんでしょう。クウガさんの名前を出した時の峡次さん、ソフトクリームを食べた時より嬉しそうでしたし。 「……さっきの店、見ただろ?」 寂しそうな問いに、わたしは小さく頷きました。 真直堂、ですよね。ちょっとしか見えなかったけど、可愛い服が沢山あって、すごく楽しそうなお店でしたけど。 「何か、腹が立って来ちゃってな。神姫界最速の神姫のマスターが、技術屋どころか何でドールショップなんかやってるんだって……な」 「……峡次さん」 その言い方がすごく怖くて、わたしは思わずバイザーを閉じました。 ホントは、バイザーの内側に映像なんて映らないんです。機械仕掛けのわたしの瞳の、画像情報を得る元が少し切り替わるだけ。 「ん?」 もちろん切り替わった後のセンサーもわたしの物だから、それが気のせいなのは分かってるんですけど……。バイザーひとつ挟むだけで、怖い顔を直接見なくて済む気がするんです。 「ホントは、クウガさんみたいな……ハウリンが、欲しかったんですか?」 だから、本当は言いたくなんかないことも、ゆっくりとだけど言えました。 「んー……まあ、な。最初はそう思ってた」 やっぱり。 わたしの胸のCSCが。峡次さんのお兄さんが作ってくれた部品が、きしりと嫌な音を立てた気がしました。 「なら……なんでわたしを返品しなかったんですか?」 胸が、痛い。 でも、ちゃんと言わないと。 「……返品?」 峡次さんは、わたしの言葉に首を傾げるだけ。 「私、あのお店で買われた神姫なんですよね? でしたら……」 フォートブラッグの基本スタイルは、砲戦特化。どれだけカスタマイズしても、装備を変えても、万能型になるには限界があります。あくまでも近付けるだけで、本当に万能型にはなれないでしょう。 それに、素体は戦闘用のパターン素体を展開出来ない不良品。服を着て戦うなんてイロモノの戦い方をしないと、恥ずかしくって戦うのも難しいでしょう。……主に私が、ですけど。 「……お前、返品されたいワケ?」 そんな! 「そんなわけないじゃないですか!」 CSCがかっと熱くなって、言葉が思わず流れ出ました。 返品なんてされたいわけありません。 けど、けど……! 「わたし、はだかですよ? 服を着て戦うのだって、ホントはしたくないんですよね?」 「……まあ、そうだけど」 峡次さん、昨日寝る前に通帳とにらめっこしてたの、知ってるんですよ? お金ない、バイトしなきゃって言ってたのだって、ちゃんと聞いてるんですから。 「わたし、近接戦って苦手ですよ? 峡次さん、近接戦ベースで神姫を組み立てたかったんですよね?」 「……何でその事を」 さすがにそれには峡次さんも驚いたみたい。 「峡次さんの部屋にあったの、組み立てかけの剣とか、加速用のパワーユニットとか、近接装備ばっかりじゃないですか」 わたしだって武装神姫。基本的な装備運用のシミュレートパターンくらいは入ってます。 もっとも、フォートブラッグのそれは自分で使うというよりも、相手の戦術を見極めるためのものだから……使いこなせるかどうかは別問題なんですけど。 「そう、なんだけどさ」 「たぶんわたし、クウガさんみたいな高機動戦は出来ないと思います」 わたしの脚は速度を叩き出すものじゃなく、確実に戦場を走破することと、砲撃の安定性を高めるためにある。 「だろうなぁ……」 「だろうなぁ……じゃなくて。わたし、砲撃しか出来ないんですよ?」 初期設定の戦術プログラムだって、弾道計算や弾種ごとのダメージシミュレートが主で、峡次さんがしたいような高速斬撃戦になんて対応してません。 その手の戦い方は、きっとベルさんやプシュケさんの方が得意なはず。 「何とかなるだろ」 何とかって……そんな、何とかなるなら……。 なるなら! 「わたしじゃ、マスターの期待に答えられないと思います! お役に立てないと思います!」 わたし、マスターのお役に立ちたいんです。 マスターの期待に応えて、喜んで欲しいんです。 嬉しい、ありがとう、って言って欲しいんです。 でも、バトルで一番の期待に応える方法は、これしか思いつかなくて……。 「……あのさ」 峡次さんは、わたしを向いてはぁとため息。 「はい」 嫌な音。 CSCが、何だかきしりと痛みます。 「バイザー、上げな」 「……はい?」 バイザー? 「バイザー。上げな」 「はぁ」 大きな手がいつ来るか怖かったけど、峡次さんの声に従って、バイザーを上げてみる。 バイザーモードから切り替えた視界は、ぼやけてよく見えなかった。喋りながら泣いてたんだと……わたしは、その時になって初めて気が付いた。 そして。 「ノリ……」 大きな手が、わたしに向かって延びてきて。 ああ、やっぱり……返品されるんだ。 でも、たぶんそれが一番いいんです。峡次さん。 次に来るハウリンには、わたしの分まで優しくしてあげて……。 「ん……っ」 思わず身を硬くしたわたしの目元を、峡次さんの太い指がそっと拭ってくれて……って、あれ? 「うん。ノリは、そっちのほうが可愛いよ」 峡次さんは、優しい笑顔。さっきまでの怖い感じは、もうしてません。 「……はい?」 このまま握られて、真直堂に返品に行くんじゃないんですか? 「ノリさ。今日、電車に乗っただろ」 ? 「はい」 話が良く分からなかったけど、とりあえず頷いておきました。 「すっごく喜んでたじゃない」 「……酔っちゃいましたけどね」 最初は景色がびゅんびゅん流れて、すっごく楽しかったんですけど……そのうち処理が追い付かなくなって、システムが落ちそうになっちゃいました。 「それでも、喜んでた」 「……はい」 頷くわたしに、峡次さんは笑顔。 「ソフトクリームも、美味しかった?」 「……はい、とっても」 もうちょっと食べたかったですけど。 でも……。 「後は……さっきの……」 「あぅう……」 あれはもっともっとしてほしかったですけど……。 「もちろんバトルもするよ? けどさ。そういうのも、なんかいいなーって思ったんだわ。今日」 「はぁ」 でも……。 「で、それが出来るのは、ノリだけなんだよな」 「……そんな、こと……。神姫なら、誰でも出来ることです」 ベルさんだって、プシュケさんだって。 お兄さんのタツキさんや、静香さんのココさんも……。起動したてのどんな神姫だって、さっきは怖かったもう一人のツガルさんだって、アイス食べたり、笑ったり、そんな事くらい簡単に出来るはず。 「うん。そりゃ、最初に起動させたのがハウリンだったら、そいつに同じ事を思ったかもしれないけどさ」 ですよ……ね。 だから、期待なんか……させないでください。 「でも、俺が最初に起動させたのは、ノリなんだよ」 だから……。 「砲撃しかできないなら、最高の砲撃が出来る武器を作ってみせるさ」 期待、なんか……。 「……峡次さん」 「それくらい出来なきゃ、神姫でバトルやっていきますなんて言えないしな」 バイザーを通さずに見た峡次さんの顔は、とっても優しくて。 「俺、頑張るよ。ノリが頑張れるように」 「……はい」 もぅ……。 この人は、なんで……。 「だから、ノリは……バイザーを上げて、笑っててくれ。多分、俺はそれで頑張れるから」 期待、しちゃいますよ? 「……いいん、ですか?」 「何が?」 「わたし、マスターのお側にいて」 ずっと、置いてくれるって。 返品なんか、しないって。 マスターの望んだ戦いの出来ない。砲撃しかできないダメな子でも、ずっと一緒に戦ってくれるって……望んじゃいますよ? 「ノリがいてくれなきゃ俺、どうやって神姫バトルすんのさ?」 ああ……っ! マスター! マスターっ! 「返品させる気がないなら、よろしくな。ノリ」 そう言って、マスターは手を差し出してくれて。 「……はい! はいっ!」 わたしはそう答えて、大きなその手に抱き付いていた。 マスターの手は、わたしを握り潰すことなんかしなくて……ただ、やさしく撫でてくれるだけだった。 戻る/トップ/続く
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鋼の心 ~Eisen Herz~ 登場神姫の武装紹介 ~四姉妹編~ 花の四姉妹 カトレア 【イージスの盾】(Aigis) カトレアの有するバックユニット。 見た目こそキュベレーアフェクションとほぼ変わらないが、性能、性質は大きく違う。 防御自体は極一般的な電磁防壁で行うものの、その出力は桁違いであり、最大出力時には肉眼で見えるほどに強力な防壁フィールドを形成できる。 しかしながら、展開するフィールドを吸収、再放出する事で極限まで消費エネルギーを軽減している為、防御効率は極めて良好であり、出力に加え持続性をも完備するまさに絶対防壁と呼ぶに相応しい防御システム。 特に出力の高さは折り紙つきで、大気中のイオンを瞬時に変質させるほどに高く、実弾攻撃はほぼ完全に弾き、レーザーは即座に拡散し無効化される。 音波攻撃も波長を変動されるために無効であり、熱攻撃も高温、低温を問わずにほぼ無効。 さらには爆風や炎などの二次的なダメージも磁気で逸らされる為に通用しない。 実質的に、『飛び道具は完全に無効』と見なして良いだけの防御特性を備えていると言える。 ただし、質量体への防御は重量の二乗に比して出力の付加を増加させるために、一定以上重い物にはバリアは発動しない。 神姫の重量はこれを満たすため、神姫本体ならばバリア内部への進入が可能。 即ち、カトレアに対する格闘攻撃は有効に機能する。 また、バリアは双方向に機能するため、カトレアからの射撃、および【ぷちマスィーンズ】等の遠隔操作も不可能であり、カトレア自身も一切の飛び道具を有していない。 また、背部バインダーには高出力スラスターが追加されており、アーンヴァルに比肩し得る機動性も持つ。 更にイージスの盾を応用し、イオノクラフトを発生させ飛行することも可能。 ただし、飛行時にはバリアの使用は出来ない。 【レイブレード】(RayBlade) カトレア最大にして唯一の武器。 高出力のX線レーザーを使用した光線剣であり、非常に高い攻撃力を誇る。 減衰率が高い代わりに、浸透率の極めて高いX線を使用する事で、通常の対レーザー装備やコーティングを無効化してダメージを与えられる。 ただし、X線レーザーの放射には、通常の赤外線レーザーの比ではないエネルギーを消耗するため、カトレアのレイブレードは、通常ホログラフィックセンサーのみを展開しており、このセンサーを遮る物があった場合のみX線レーザーを放射する。 つまり、“斬る瞬間”以外はエネルギーをほとんど消耗しないため、小型の基部でありながら稼働時間は極めて長い。 更に、バインダー内部には最大四本のレイブレードを格納し、それぞれ個別に充電することも可能。 【メドウサーシステム】(Medousa Containment) イージスの盾を転用した特殊攻撃。 防御に使用する膨大な電磁場を収束、放出する事で対象の神姫を拘束する機能。 射程距離自体は極めて短く、使用中はイージスの盾によるバリアが発動しない等の欠点もあるが、対象となった神姫が独力で脱出する事は完全に不可能。 この状態から更に、相手を引き寄せ、イージスの盾で“抱き潰す”『アイアンメイデン』と言う攻撃方法もある。 アルストロメリア 【デメテールスラスター】(Demeter) X字状に展開するスラスターユニット。 出力のみに重点を置いて調整された【エクステンドブースター】四基を稼動させることで、最高速度と機動性を両立させたブースター。 【デメテール】に使用されているブースターは、通常の【エクステンドブースター】の三倍もの出力を持つものの、駆動させてからトップスピードに乗るまでの時間が非常に長く、本来は回避には使用できない。 しかし、【デメテール】はそのブースターを“常時稼動させ続ける”事で加速性の悪さを補っている。 常に稼動している為に、静止するにはスラスターをX字状に展開し、出力のバランスを取る必要があるが、移動、回避を行う際には、“稼動し続けている”スラスターを動かす事で推力の釣り合いを崩し、即座に最大速度にまで加速する。 移動中にもスラスターの角度は自在に変更可能で、急激な方向転換や急旋回も可能。 それを回避に活用した場合の回避力は筆舌に尽くしがたく、現行の技術で作られる神姫としてはほぼ最高級の性能といって言い。 【アルヴォ PDW9 改】 アーンヴァルの武装である【アルヴォ PDW9】を【高速弾】仕様に改造したもの。 威力自体はさほどでもないが、アルストロメリアの機動性を持って背後から撃たれた場合は、充分な脅威となる。 弾数は極めて少ないものの、必殺の威力を持つ【重芯徹甲弾】も発射でき、弾切れまで耐えるのは現実的な対処法ではない。 予談だが、面積の広い【アルヴォ PDW9 改】は飛行時のアルストロメリアの翼代わりとしても機能する。 ストレリチア 【オーロラモード】(Aurōra) ストレリチアの通常戦闘形態。 機動性と速度のバランスを最重視しており、高い回避力を持つ。 武装は電磁射出式のパイルランス。 武装の威力に加え、速度と腕力を上乗せして放つ突撃は、如何なる神姫も耐えることは不可能だろう。 皮肉にも、フェータと同様の戦法であり性能で勝る一方、技量では劣っており、結果的に双方の攻撃力はほぼ互角と言って良い。 背面のエクステンドブースターは、アルストロメリアのものとは違い純然たる加速用。 固形燃料を使用し、瞬間的かつ爆発的な推力を得ることが可能。 反面、いったん起動してしまえば、固形燃料一回分が燃え尽きる3秒間は何があっても加速を止められない。 更に、カトレアと同様のバリアも持つが、こちらはジェネレーターと機構の関係上、展開できるのは一瞬だけ。 攻撃を防ぐためではなく、突撃時に自身がクラッシュするのを防ぐ目的で使用される。 これを応用し、上空からブースターで加速しつつ“地面に激突”する事で、自身を大質量弾として周辺一帯を吹き飛ばす『ドラゴニックメテオ』と呼ばれる攻撃手段がある。 【タイフーンモード】(Typhon) ??? ブーゲンビリア 【ユピテルレーザーシステム】(Jupiter) 薬品の化学反応を源とする化学レーザーシステム。 出力も然る事ながら、最大の特徴は、薬品と反応室が一体化した“弾薬”を使用し、それを交換することで高出力レーザーを連射できる事にある。 更に、この“弾薬”は、最大装填数である3つまで“同時に”発射することが可能。 これらは単発使用時の“class1”から、3発同時使用の“class3”まで自由に切り替える事が可能。 特に3発同時使用の“class3”の火力は圧倒的であり、既に神姫武装の域を出てしまっている。 武器の威力は、敵を倒す事ができれば充分であり、それ以上の威力を持っていても意味は薄い。 正直な話、このような威力を持つよりも機動性なり装甲なりを強化するほうが“強く”はなる。 だが、攻撃能力はあっても戦闘能力を有さないブーゲンビリアにとって、通常の神姫には困難な“対物破壊能力”を保持することが、3人の姉と比した場合の存在意義だと定義しているため、このような火力一辺倒の武装構成を選択することになった。 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る